☆『ペガサスに乗る』アン・マキャフリイ著
幹遥子訳、'95/1/31、ハヤカワ文庫SF、620円
 ま、一言で言ってしまえば、職業としての超能力を扱った中編集で、「銀の
髪のローワン」の先駆けとなる作品集。

「ペガサスに乗る」「女らしい能力」「腐ったリンゴ」「ペガサスの手綱」収録

粗筋:
 脳の活動を描記することによって、超能力の存在が科学的に認められた時代。
  どもすれば敬遠されがちな彼らの能力を<ペガサスを乗りこなすように>使い
こなし、人々の役に立ち社会に認めてもらおうとして、超能力者の活動を組織化
しようと立ち上がった男がいた、というのが、最初の中編です。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 SFファンの暇つぶしには絶好。肩も凝らないし。
 これ、黙って読まされたら、ハインラインの古い作品と思うかも知れないなあ
(Copyright 1973)


☆『マルチプレックス・マン』J・P・ホーガン著
小隅黎訳、'95/2/5、創元SF文庫、上巻 550円,下巻530円
粗筋:
 がちがちの体制派である中学教師ジャロウは、脳波パターンの不規則性を指摘
され、専門医にかかっていた。ある日、脳波を調べてもらうために催眠剤を飲ん
で、目が覚めると見知らぬホテルの一室だった。七ヶ月間の記憶を失った彼は、
知人たちのもとを訪ねるが、誰一人として彼を知らないと言う。それどころか、
ジャロウは五ヶ月前に死んだのだと指摘される。
「じゃ、いったい俺は誰なんだ!」

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 キース・ローマの『前世再生機』+シェフィールドの『マイ・ブラザーズ・キ
ーパー』÷3と、いったところかな。
 アイデア自体はよくある話だし、展開もちと古めかしいよね。ホーガンさんは、
お話作りは上手くなったようだけど、そのぶんなんだかSF心が薄れてきつつあ
るような気がする。どんどん一般作家になりつつあるようで悲しい。


☆『恋人はインターフェース』東野司著
'95/2/6、ジャストシステム、1400円
 かねてより JUST MOAI に連載中の電脳落語ショートショート集が本にまとめら
れました。見開き2頁で掲載されていたのショートショートが29篇収録されています。
(挿し絵:いしかわじゅん)

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
  どうしても私は、「静かなる暴走」とかの系統のしんみりしたショートショー
トが好きなのです。私がず〜っと「モアイ」を借りていた友人は、どこが面白い
のかさっぱり分からんと言います(この面白さが分からないとは可哀想だ)

☆『パラレルワールド・ラブストーリー』東野圭吾著
'95/2/7、中央公論社、1600円

粗筋:
 敦賀崇史と三輪智彦は中学校以来の親友で、二人とも大手外資系コンピュータ
メーカで、仮想現実と記憶に関する研究を進めていた。
 ある日、智彦から恋人として美しい女性を紹介された崇史は、その女性が、毎
週すれ違う電車越しに見る憧れの女性であることに驚く。
 彼女への恋いと智彦との友情の間で、崇史の心は千々に乱れるのだった・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/3
 「実際の過去」と「改変された過去」が交互に配され、そのきしみの中から、
崇史の「変えてしまいたい過去」と「変えられた現実」の齟齬が徐々に明らかに
なっていくというSFタッチのミステリです。
 記憶の改変研究から悲劇が生ずるところなんかは、なかなか上手いですね。三
角関係そのものの描写はちと物足りない面もありますが^^;


☆『時空の支配者』ルーディ・ラッカー著
黒丸尚訳、'95/2/15、ハヤカワ文庫SF、520円
 以前に新潮社から出ていたものの再版です。

粗筋:
  主人公とマッドサイエンチストのでこぼこコンビが繰り広げる、時空を揺るが
  す大騒動ってところかな(要約が難しい)
 今回の目玉は、なんとプランク定数を1m!にするというものヽ(^。^;)丿これ
を脳に注入すると、その人間の脳自体が不確定な存在になり、望むことがすべて
出来るようになるという・・・

☆☆☆☆1/2
 相変わらずのハードSF的設定のマッドぶりで楽しませてくれます。
 やはりSFはこうあらねばいけませんね。


☆『戦う都市』マキャフリー & スターリング、
嶋田洋一訳、'95/2/24、創元SF文庫、上下巻各530円
 共作のスターリング氏は、あのサイバーパンクのスターリング氏ではなく、
ミリタリーSFの書き手です。共作において、お互いの長所が上手くかみ合う
と、単独では出来ない分野の作品をものにすることが出来ますが、果たしてこ
の作品ではどうだったでしょう。それは読んでのお楽しみ。

粗筋:
 銀河外辺部の宇宙ステーションを管理する脳<ブレイン>シメオン。彼はス
テーション内のことなら自分の体同様に察知することができるのだ。ある日、
彼の元に新しい筋肉<ブラウン>が派遣されてくる。その新任の"筋肉"は切れ
る女性なのだが、どうも意に反してステーションに赴任してきたらしい。
 なんとか上手くやっていこうとしている折りもおり、宇宙海賊に追われて制
御不能になったボロ宇宙船が突っ込んでくるのが発見された。
 この後、なんとかオンボロ船の進路を変えて、乗客を救出するのですが、海
賊の船団がまだ追ってきているがわかり大慌て。

独断と偏見のお薦め度☆☆☆1/2
 きわめて個人的な理由なのですが、やはりマキャフリー女史とミリタリー調
は似合わないような気がしました。まあ、気軽に楽しめるという点は評価でき
ますが・・・

☆『家族場面』筒井康隆著
'95/2/25、新潮社、1300円
筒井氏の段筆直前の短編集。

収録作
「九月の渇き」「天の一角」「猿のことゆえご勘弁」「大官公庁時代」
「一二市場オデッセイ」「妻の惑星」「家族場面」「天狗の落とし文」

「九月の渇き」
 初期の短篇を思わせる読みやすい作品。
  異常渇水によって水の無くなった都市の混迷をシュールに描いています。
  公衆トイレで放尿を浴び恍惚とする能客派の描写がすごい。

「天の一角」
 犯人によって殺された被害者の家族によって死刑執行がなされる世界を描
いた作品。確かに、そりゃ家族にとっても負担になるでしょうねぇ。
(死刑反対、賛成とか言う人は、当然ここまで考えているのであろうか)

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 筒井康隆氏の作品の解説をするのは、こちらの知性を見すかされるようで
恐いというのが、偽らざる心境です。


☆『タイム・パトロール 時間線の迷路』ポール・アンダースン著
大西憲訳'95/2/28、ハヤカワ文庫SF、上下巻各580円

粗筋:
 前作『タイム・パトロール』以降、無任所所員エヴァラードは、決してさぼ
っていたわけではありません。ということで、彼と彼がほのかな思いを寄せる
新人パトロール員ワンダの冒険が「汝の内なる異邦人」「女と馬と権力の戦い」
「神々を作った神々以前」「ベーリンジア」「ベーリンジア(承前)」「この
謎を解いてみろ」「世界のおどろき」の七つの中編で語られます。
 私の好きなのは、「ベーリンジア」「ベーリンジア(承前)」で語られるシ
ベリアとアラスカが繋がっていた15000年前のエピソードです。
 最後にデイネリア人が語る「宇宙は、みずからの存在を守り、それに目的を
与えるために、意識を生み出したのではないか。あなた方は、それを守る者の
一員なのです」という"人間原理"は胸にしみますね。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 やはり守らなければいけないものがある方が、男も生き甲斐があるというもの。


☆『黎明の王 白昼の女王』イアン・マクドナルド著
古沢嘉道訳、'95/2/28、ハヤカワ文庫FT
'92年度フィリップ・K・ディック賞受賞

粗筋:
 近代科学の黎明期たる1910年代、不可思議な彗星が観測される。
  その彗星は、人工の物としか思えない点滅の仕方をするのだった。さてこの
現象を最初に発見したアイルランドの天文学者には、15歳になる一人娘エミリ
ーがいた。ケルトの妖精王と結ばれることを夢見る彼女はある日、本物の妖精
と出会い、その写真を撮ることにも成功する。その写真を見せられた詩人のイ
ェイツは催眠療法による尋問を試みるのだが・・・・・
 1910年代、1930年代そして現代と、三代にわたる女性と森に潜む神話世界と
の軋轢を描く中編三部作です。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 アイルランドの森と神話というと最近ではホールドストックの『ミサゴの森』
(角川書店)が思い出されます。しかし『ミサゴの森』は徹頭徹尾理解不能な森
の魔力を描くことに主眼が置かれていたのに対し、この作品は神話世界の現実
世界に対する影響力を調査考察することによって、確固たる背景を作り上げS
Fファンにも取っつきやすいものに仕上がっております。
 SFファンにとって、一昨年のベストファンタジーはティム・パワーズの『
アヌビスの門』と『石の夢』というのは異論のないところだと思いますがそれ
に匹敵する傑作ではないでしょうか。


☆『審判の日』五十嵐均著
'95/3/3、角川書店、1500円
  第14回溝口正史賞受賞作『ヴィオロンのため息の』の著者の作品

粗筋:
 法律事務所に勤めるリードが、会社のパートナー弁護士の座についた祝いの
席のシーンから幕を開けます。リードの妻はかつてやり手の秘書であったので
すが、今は筋ジストロフィーに罹って車椅子生活を余儀なくされています。
 パーティ途中で疲れた妻を送って会社を出た時、リードは不思議な青年と出
会う。リードの手を放れた車椅子が車道に飛び出し、車にはねられそうになっ
た瞬間、見えない力でストップしたように見えた。それがリードと、直ぐ側に
いた再臨したキリストとの出会いでした。
 同じ頃、アメリカの研究者のカップルが、イスラエルにおいてマグダラのマ
リア記念教会の遺跡を発見し、しかもそこにはキリストの毛髪が保存されてい
たのです。
 キリストの毛髪の遺伝子読みとりの結果、染色体の型がXXと判明し、しか
も細胞質の中にYが隠されていることも判明したあたりからぐいぐいお話に引
き込まれていきます。そうしてついに、その再臨したキリストと、毛髪の遺伝
子型の類似を検査することに・・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 かなり力量のある人ですね。ぐいぐい物語に引き込まれ、あっという間に読
み終えてしまいました。最近はミステリ分野の人も、この本とか京極夏彦さん
の『魍魎の匣』とかSF的設定を難なくこなしていて侮れないなあ。まあ、S
Fだとこれから肝心の物語が始まる時点で終わってしまっているのは残念なん
ですが^^;


☆『SWIM 水夢』川又千秋著
'95/3/4、アスペクト、1800円
 '83年〜'92年に雑誌掲載された"ちょっと外したあたりに狙いを付けた"短編集。
 異境の地のホテルのバスに浸かりながら、しとどなく溶解してゆき、やがて水
と一体化し、海へ流され、その後再構成される気持ちよさを描いた標題作を始め
とした、一風変わった短編集です。

  収録作は、「ぼくはロボット」「大王を待ちながら」「路傍の罠」「地球空洞説」
「水夢〜swim〜」「アインシュタイン保護区の密猟者」「豚が飛んでいる」
「地獄塾」「来たれ、超人類」「企業戦士クレディター」「不思議もものき探検隊」

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
『幻詩狩り』などの、シンボリックなもっと難解な小説を書く方だという印象が
強かったのですが、こういう割とゆったりとしたお話とか、アイデア一発勝負の
ショートショートもなかなかいけますね。


☆『時間的無限大』スティーヴン・バクスター著
小野田和子訳、'95/3/15、¥600、ハヤカワ文庫SF

設定:
 木星軌道上に設置した1500年未来に繋がるワームホール。その未来ではクワッ
クスなる宇宙種族に地球は占領されていた。地球の対クワックス外交官であるバ
ーツは、クワックスの地球総督に呼び出される。というのはクワックスの総督は、
その時ワームホールの一端が再び地球に帰還してきたことを知らされ、しかも地
球人の反乱者がそのワームホールに向かっていることが判明したのだ。
  そうなるとクワックスがまだ現れていない時代の地球人と反乱を起こした地球
人とが結びつく恐れがあるというのだ・・・
 このワームホールによるタイムマシンというのは、"Morris-Thorne Field-Sup
ported Wormhole"とかいうものらしいですね。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 特にハードSFファンには大推薦の久々のハードSF一直線であります。
 まあ『天の筏』の方が、少年の成長と冒険というハードSFに似つかわしい一
般受けする設定に対して、今回は性格描写、人間関係の機微はなしで、SFガジ
ェット&最新物理理論がてんこもりですからねえ。


☆『20世紀のパリ』ジュール・ヴェルヌ著
榊原晃三訳、'95/3/20、集英社、1600円

  128年ぶりに発掘されたジュール・ベルヌの初期作品。
 著作権切れにより、集英社版とブロンズ新社版が同時に出版されて話題にな
りましたが、集英社版の方で読みました。

粗筋:
 19世紀の作家が、「1960年という未来」を描いた小説ですが、リニア・
モーターカー、電話、ファクシミリ、パソコン、自動車、電気ピアノなどが描か
れているのはさすが。一方、飛行機やテレビを予測出来なかったのは残念(とい
うのはもちろん冗談ですけど)
  イギリスから資本主義を輸入した結果、文化が滅びてしまった絶望的なパリの
  姿を描いています。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
  読後、なるほどヴェルヌ氏のペシミズムは35歳のころからその萌芽があった
わけだと納得。科学技術の発達を、正確に予言しているのはともかく、明治維新
以前に、こうした科学技術に偏った社会、金融に支配される世界が人間性まで変
容させることを看過しているのはさすがという他はありません。(特に最近の日
本の状況を思うにつけても・・・・)


☆『ロケットガール』野尻抱介著
'95/3/25、富士見ファンタジア文庫、640円

粗筋:
 ソロモン諸島で国産衛星を打ち上げようとする第三セクター<ソロモン宇宙
協会>。この怪しげな団体に、父親を探しにやってきた女子高校生が出会った
ことから物語は始まります。なんと彼女の体重が、たった38kgであることに目を付け
た協会は、早速彼女を宇宙飛行士に仕立て上げようと、あの手この手で篭絡しようと
するが・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 爆笑ハードSFクレギオン・シリーズで名を馳せた著者の、ノンストップお笑い満
載なおかつ超真面目和製ライトスタッフです。ハードSFファンは見逃せない一冊!
 なお、『ロケットガールRPG』は、富士見文庫“富士見ドラゴンブック”より出
ているようです。野尻さんの本職はゲームデザイナーなので、当然野尻さんが、この
本も書かれています。
 この小説はアポロをリアルタイムで知っているかどうかでかなり評価が変わるそう
なのですが、私は子供の頃月着陸をTVで観て感動した口ですので(アポロというか
ジェミニ世代ですな)関係ないですけど、ヴァージル・G・グリソム氏の『ジェミニ
よ永遠に』も感涙ものでした。


☆『宇宙のランデヴー4』アーサー・C・クラーク&ジェントリー・リー共著
冬川亘訳、'95/4/30、早川書房、上下各2000円

粗筋:
 前作で死刑を宣告されたニコルたちは、這々の体でクモダコ達の居住区にたどり着
き、そこで暮らすようになる。一方独裁者中村は、難癖を付けて一方的にクモダコの
居住区に侵攻してくる。リチャード達はなんとか全面戦争を避けようと使者として独
裁政権の元へと赴くが・・・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆1/2
 この後、ラーマからの介入があるのですが、その最終的な解決法がなんともはや。
どうしてもリー氏の人間性を疑ってしまうような(苦笑)
 雰囲気的には、マータ・ランドルの『星のフロンティア』に見られるが如くの異星
ファミリー大河ドラマのラーマ版といった趣。いったいセンス・オブ・ワンダーはど
こへ行ったの(無い物ねだりか^^;)当然のこととして、最後にこれまでの謎解きが
あるのですが、もっとあっと驚き、胸にジーンとくる結末はないのだろうか。
 それと、気持ちは分かるのだが、表紙にクラーク氏の名前をリー氏の名前の4倍大
で記すのは誇大広告だと思うぞ(怒髪)


☆『パラサイト・イブ』瀬名秀明著
'95/4/30、角川書店、1400円
 第2回日本ホラー小説大賞の大賞授賞作です。

粗筋:
 ある女性が交通事故で死んだが、彼女は腎臓バンクに登録しており、死後その腎臓
は病気に苦しむ少女に移植された。それとは別に、彼女の夫の生化学者は彼女を思う
余り、肝臓の細胞を取りだし培養を始めた。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
  ただ一つの前提条件だけが架空のことで、あとは薬学部の生化学者である主人公と
そのシチュエーションの正確な描写を積み上げていくことによってリアルな雰囲気を
出すことに成功しています。(こういう設定はSFでも割とよく使われる手なのです
が、作者がその分野のドクターコースということもあって、実に見事に書けていると
思います。ベンフォードの科学者像に匹敵するなあ)
 その架空のこととはミトコンドリアに関係しているのですが、これもなさそうであ
りそうな微妙なところなのでそれほど違和感を感じませんでした。


☆『ドリーム・ベイビー』ブルース・マカリスター著
内野儀訳、'95/4/30、ハヤカワ文庫NV、上下各620円

粗筋:
 ヴェトナム戦争に陸軍看護婦として赴いたメアリー・ダミーコ中尉は、戦争の悲惨
な実態に直面し、奇妙な夢を見るようになった。次の日に担当する兵士の怪我の状態
を前もって夢に見るのだ。そしてその死までも・・・・
 しかしヴェトナム戦争においてこういった<才能>を使えるようになったのはダミー
コ中尉だけではなかった。そしてこれらの<才能者>を集めて、ある特殊な秘密作戦
が実行に移される・・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 ヴェトナム戦争と特殊能力を持った看護婦というと、エリザベス・アン・スカボロー
女史の『治療者の戦争』がまず頭に浮かびますが、看護婦版『マッシュ』といった趣
の『治療者の戦争』とは異なり、この作品は暗いトーンに終始します。しかし力強い
語り口で読者をぐいぐい引っ張っていく力量は確かなもの。傑作ですが、読後感は重
いです(戦争ものはすべからく重いですが)


☆『愛のふりかけ』草上仁著
'95/4/30、角川書店、1600円

粗筋:
 人口爆発と感染力のある麻薬「ブラッグ」に悩まされる近未来。政府の発表する全
国民総合重要度順位で1億6734万9075人中1億2805万2001位と、国から役立たずとみな
された主人公は、順位向上のため、国民から広く解決策を公募する政府課題にとりく
むが……

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 絶対にに面白いです。あなたは必ず主人公に感情移入し、ハラハラどきどきイライ
ラして、ページをめくる手が止まらないに違いありません(万歳)
 典型的な巻き込まれ型の頼りない主人公なのですが、なんといってもそのモラトリ
アムぶりと、意外なガッツがナイスじゃないでしょうか(笑)

☆『700年の薔薇(上・下)』ルイス・ガネット著
山田順子訳、'95/4/30、早川書房、各1942円
粗筋:
 両親が離婚し母親の元に引き取られた少年の元に、父親のマルコム・スープア男爵
から一通の手紙が届く。それによるとスープア一族には、700年に渡る呪いのため、
直系の男子が総て、50歳を前にして自殺しているというのだ。そして、自分自身も
50歳を前にして、狂気と死を予感したので、最期の時を息子とともに過ごし爵位と
財産を譲る準備をしたいというのだ。離婚の前に予め母親とは話がついていたらしく、
少年は父親の広大な屋敷を訪れることとなる。そこには12匹の赤い眼をした大型犬
とセピア色の薔薇が溢れる地下室があるのだ。
 一方、少年が通うクラスの担任は、教師と偽り若者の性的アイデンティティを研究
していた。そして彼女は超能力を中継点する能力があり、その恋人の超能力研究所所
員には、彼女が異常に出会うとそれを察知する能力があった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 ホラー、ファンタジー・ファンにはお薦め。手紙や手記、録音など『吸血鬼ドラキュ
ラ』と同じように構成された本書は、クセのある登場人物を配して、現代風に仕上げ
てあります。なんせ主人公の少年がゲイ(両刀使いかな)でとびっきりの美男子で・
・・

☆『友なる船』アン・マキャフリー&マーガレット・ボール共著
浅羽莢子訳、'95/5/26、創元SF文庫、700円
粗筋:
 華族<ハイファミリー>出身の頭脳船ナンシア。その初宙航の搭乗者は、なんと華族
出身の札付きの悪たち。筋肉<ブラウン>が乗っていないため、無人船と間違われたナ
ンシアは、彼らの悪巧みを聞いてしまう。しかしプライバシーを犯すのは御法度のた
め、ジレンマに陥ったまま彼らを放り出し、次の任務に向かうが・・・・・
 数年後、噂で彼らの悪事が聞こえてくるようになった。さあ、頭脳船ナンシアと相
棒の出番だ・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 ハーレクィンSFと言われようと、砂糖菓子SFと言われようと、『歌う船』は良
かった。しかし、この本あたりになるともはやかつてのマキャフリーの面影はないで
すね。これでは、『歌う船』の設定を借りてボール女史が書いたシェアワールドもの
としか思えないもんなあ。ま、読めば面白く、SF好きの肩の凝らない暇つぶしには
絶好の本であることは間違いありませんが。

☆『神の熱い眠り』オースン・スコット・カード著
大森望訳、'95/5/31、ハヤカワ文庫SF、700円
粗筋:
 あらゆる苦痛が瞬時に癒され不幸や恐怖が存在したことがなく、総ての人々が幸福
に暮らしていた世界に、ある日突然、不幸と痛みと暴力が訪れた。
 その朝、人々の前に伝説の神と同じ名前を持つ男があらわれ、それ以後レアド少年
は、夜毎に15000年にわたる男の人生を夢見て、それを書き記すのが日課となった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 傑作ですヽ(^o^)丿でも、やや散漫な印象も受けました。これを読んで感じたのは、
よくある「あんなに良い人がなぜ苦しまなければならないのか。では、この世には神
はいないのか。」という疑問に対するカード氏の回答を、SF形態で現したように思
われました。苦痛も不幸もあってこそ真の幸せがあるという・・・・・
 で、カード氏の作品の中で私がいっちゃん好きなのは、短編ですけど「無伴奏ソナ
タ」です。

☆『ハイペリオンの没落』ダン・シモンズ著
酒井昭伸訳、'95/6/15、早川書房、3000円
 前作の『ハイペリオン』を読まないで、『没落』を読むという非常識な人はいらっ
しゃらないと思うので、簡単に(爆笑)
粗筋:
 前作で、再生寄生体に取り憑かれ激痛のため麻薬が切らせないホイト神父、モニー
タとシュライクを追いかけるカッサード大佐、未完の詩を完成させようとする詩人の
サイリーナス、時間逆行症にかかり赤ん坊になってしまった娘をどうにかして助けよ
うとするワイントラウブ、人類とアウスター双方を裏切ることになった領事、失った
恋人の望み通りにハイペリオンにやってきた探偵のレイミア、それぞれの導きによっ
て一堂に会した6人の運命は、いかなる展開を辿るのか。
  巡礼の一人一人がハイペリオンとの関わりを語るという個人的レベルの中編が集め
られた前作の構成とは異なり、『没落』では、人類・アウスター・AI<テクノコア
>の思惑も絡み、個人の挿話から全体的(全宇宙的)な話まで広がっているのが特徴
です。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 前作の伏線が、次々と生かされて「おお、聖十字架とはそういう目的のためのもの
だったのか。兵士は、そのために。詩人は・・・・。探偵は・・・・」と謎解きされ
るのは、ある種快感なのですが、それが前作のような感動につながるかと言えばそれ
ほどでもない(よくぞここまで!と感心はするのですが)
 <雲門>の禅問答のくだりに代表されるように、どうも作者も謎解きに重点置いて
書いているように思え、それには感心するのだけれど、読者としてはその分そっちに
頭を使って物語としての筋を追うのが疎かになり、感動が薄れがちになってしまいが
ち(私の頭が悪いせいもありまが)
 で私の疑問点はというと、ステープルドン氏についてなんですけど。シモンズ氏が
こだわりを持っている第一次大戦において、同じように従軍し宇宙進化論を夢見たシャ
ルダンとステープルドン。(どちらも同時期に第一次世界大戦西部戦線で軍務につく。
第一次大戦へのこだわり度は『愛死』参照のこと)
 従軍牧師兼任の担架兵伍長として植民地歩兵部隊での軍務を体験した神学者シャル
ダンは、その際に翌年(1916)の最初の宇宙進化論『宇宙的生命』や『大きな単子』と
いった初期の著作の構想を固めていたはずである。
 一方非戦主義者だったステープルドンは、クエーカー教徒が主催する非暴力部隊(
フレンズ救急隊)に宗旨の違いをこえて参加する。彼もこの時既に『最後にして最初
の人間たち』(1930)等の宇宙論的ファンタジーの構想をいだいていたと思われる。実
際、このときに妻に送った手紙の中で、彼は彼女の幻と出会い、ともに霊魂となって
宇宙を旅するという夢想について記しているそうであります(以上、永瀬唯氏の著作
による)
 私にはこのエピソードが、『愛死』(角川文庫)所載の「大いなる恋人」と『ハイペ
リオン』のモニータとがどうしても重なるのです。
 確かに『ハイペリオンの没落』中にはシャルダン氏と彼の幻視した地球精神圏(ヌー
スフェア)から最終到達点のオメガポイントまでの幻視しか出てこないわけですがど
うしてステープルドン氏への言及がないのでしょうね。絶対にに『スターメーカー』
あたりを意識して書いていると思うのだが(あまりに自明なことなので書かなかった
ということですね)

☆『ブレイクの飛翔』レイ・ファラデイ・ネルスン著
矢野徹訳、'95/6/30、ハヤカワ文庫SF、720円
 ベスター氏の『虎よ!、虎よ!』の巻頭の詩「虎よ! 虎よ! ぬばたまの夜の森
に燦然と燃え。そもいかなるは不死の手 はたは眼の作りしや、 汝がゆゆしき均斉
を。」で、SFファンにもお馴染みの詩人・版画家のウイリアム・ブレイクとその妻
ケイトに題材を取ったファンタジー(どちらかといえばハヤカワ文庫FTの間違いでは
ないかと)
粗筋:
 背に翼を持ち時間流をきままに飛び回る未来人ゾアの一人ユリズンは、過去に手を
加えて自らの理想郷を創り出す計画にブレイクを巻き込む。しかし下層階級の出身だ
が純真無垢な心を持つ妻のケイトは、愛する夫を取り戻そうとユリズンの企てを阻止
しようとするが・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 ブレイク氏が主人公の冒険談というより、汚れを知らぬが無知な妻のケイトの精神
的成長を描いたフェミニズム小説と思って読まないと裏切られた気になるかも知れま
せんね。
 その手の小説がお好きな方にはお薦めの時間改変ものです。

☆『ドラキュラ紀元』キム・ニューマン著
梶本靖子訳、'95/6/30、951円
粗筋:
 ヴァン・ヘルシング教授が斃れ、ドラキュラ伯爵はヴィクトリア王女と結婚しイギ
リスを統治する時代。吸血鬼の娼婦ばかりが銀のナイフで解体され殺される事件が頻
発していた。闇の内閣の特命を受けた温血者の諜報員ボウルガードと、吸血鬼の美少
女(実は450歳)ジュヌヴィエーブが事件の捜査に着手する・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 吸血鬼が出てきますが、設定に整合性があるので、SFファンにも読みやすいです
ね。マシスンの『吸血鬼』の雰囲気で書かれた歴史改変ものと言った感じです。温血
者と吸血鬼達が織りなす今一つの世紀末の物語。<切り裂きジャック>の正体とは?

☆『螺旋』エドマンド・ホワイト著
浅羽莢子訳、'95/6/30、早川書房<夢の文学館>叢書、2330円
 『ある少年の物語』で一世を風靡したゲイ作家の描く幻想譚。
 最近('97/7)短編集『生きながら皮を剥がれて』が早川から出ました。

粗筋:
 どことも知れぬ島の郊外の寂れた館に住んでいる少年ガブリエルは、ある日森の中
で別の部族の野性的少女アンジェリカと出会い、日毎に逢瀬を重ねる仲となりその部
族のしきたりに従って婚姻する。しかしそのことが元で父親に監禁されるが、伯父の
助けで都で一緒に暮らすこととなった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 一風変わった少年と少女の成長譚。バリバリのゲイ作家である著者の書いたヘテロ
セクシャル恋愛(情交?)冒険ものとも言えますが。古い文化の元で育った少年が異
なる文化に放り込まれ、新しい規範・芸術・宗教に幻惑されながらも、自分のアイデ
ンティティを確立していく様は、SFに通じるところがあるかも知れませんね。

☆『ワイズ・チルドレン』アンジェラ・カーター著
太田良子訳、'95/6/30、早川書房<夢の文学館>叢書、2330円

粗筋:
 75歳のロンドン生まれの双子の姉妹ノーラとドーラ。このちょっとはすっぱだけ
ど元気いっぱいの二人の歌と踊りの一生を描く奇想天外なお話。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ヴァージニア・ウルフの流れに繋がると表されるカーター女史の滅法威勢の良い語
り口に乗せられて、あれよあれよという間に読み終えてしまいました。カーター女史
の作品は初めて読むのですが、主流文学界では有名な人みたいですね。
  全部で五組の双子が登場する奇想天外なこのお話を、寅さんの啖呵ような威勢の良
い文体で読んで、物語を読む楽しさの原点に触れたような気がします。

☆『アイゼン・ドラグーン』鳴海章著
'95/7/5、講談社ノベルズ、780円

粗筋:
 木星暦486年、浮遊大陸に建設された都市群は、皇帝ジュネロ三世による専制統治
を受けていた。ジュピトリアン・シティのコロッセアムで行われる殺人闘技ベア・ナッ
クルの闘士、蒼龍山は日系人であるがゆえに、シティの住民にはなれなかった。チャ
ンピオンベルトを5回防衛すると、名誉市民になれるのだが、蒼龍山は、7回防衛し
ての地球への帰還を狙っていた。おりしも最下層である日系人を中心とした35番都
市で不良グループのリーダー零也は、CPUを保管してある倉庫に忍び込み、不思議な
人形<キー・ドール>を手に入れる。そしてそれが木星社会を揺るがす大変動のプロ
ローグとなるのだった・・・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 お話自体は面白く、読ませます。でも、木星に浮かぶ浮遊大陸という魅力的な設定
を生かしているとは言いがたいのが難点かなぁ。

☆『天使の牙』大沢在昌著
'95/7/20、小学館、1650円
粗筋:
 河野明日香巡査、色気もそっけもない大柄で骨太の保安二課の女刑事。日頃から取
り締まりの対象としている麻薬<アフター・バーナー>の元締めである日本最大の麻
薬組織「クライン」のボスの元情婦神崎はつみの護衛を命令され、護衛中にその女と
もども殺されてしまう。しかし脳だけは奇跡的に無傷だった明日香巡査は、脳移植に
よって、被害が少なかった元情婦はつみの身体を得て甦る。25歳の絶世の美女とし
て・・・・・
 そして、はつみを取り戻そうとするボスとの間に壮絶な血戦が始まる。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 無理やりSFに分類できないこともないけど、やはりアクション小説ですね。拒絶
反応はどうしたんかいなとか、頭蓋骨の大きさが違うだろうがと、色々疑問はあるけ
ど、そういう仔細なことを考えてはいけません(笑)格闘技万能のどちらかといえば
不細工な明日香刑事が、絶世の美女であるが体を使うのはベット以外はまるでダメな
神崎はつみの身体で甦り、新しい華奢な体に苛立ちながらギャング相手に四苦八苦す
る様子とか、恋人の"仁王"こと古芳巡査のとまどいを楽しめばよろしいのではないか
と(爆)

☆『ラッカー奇想博覧会』ルーディ・ラッカー著
黒丸尚他訳、'95/7/31、ハヤカワ文庫SF、660円
 例によってハードでしかもユーモアたっぷりのSF短編の数々ヽ(^o^)丿
  収録作品は、、
「遠い目」
 排煙をとことん圧縮してニュートロム状態にしてしまう排煙除去装置の顛末
「パックマン」
  ゲームセンターとプログラム開発を結びつけた恐怖談
「自分を食べた男」
 宇宙埋葬と閉じられた時間の環がテーマ
「慣性」
 新発明の慣性巻き取り機(笑)のために宇宙が大混乱に陥りかけた顛末
「第三インター記念碑」
 謎の彗星が店に激突、蒸発した靄によってもたらされた能力とは
「柔らかな死」
 人間の脳のソフトウェア・モデルというアイデアの原型となる短編
「宇宙紐だった男」
 奇想天外、題名通り^^;
「宇宙の恍惚」
 無重力状態での sex が登場する短篇。ピェール・ブール氏にも同じ題材の短編が
ありますね。内容は似ているようで違いますけど。
「クラゲが飛んだ日」
 スターリングと共作した爆笑マッド・サイエンチストもの
「1990年日本の旅」「日本のアーティフィシャル・ライフ」
 エッセイ
他に
「五七番目のフランツ・カフカ」「虚空の芽」など。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ラッカー氏の作品は、いわゆるハードSFとは異なりますが、題材は極めてハード
ですね。構成とか展開はファンタジーと呼んでも良い作品もありますが、ハードSF
のコア部分は確実にあります。誰にも似ていないハードSF作家ラッカー氏の短編集
を読むと、きっとあなたも病みつきになること請け合いです。

☆『らせん』鈴木光司著
'95/7/31、角川書店、1456円
『リング』続編。前作を読んでいなくても十分楽しめます。
粗筋:
 誤って息子を溺死させた過去を持つ監察医安藤は、それが原因で妻と別居し、自身
も不安定な精神状態にあった。ある日、偶然大学時代の同級生高山を剖検することに
なった。死因は心筋梗塞であろうと推測されたが、高山の恋人である女性の話による
と、高山は彼女に電話してきてその最中、悲鳴とともに絶命したらしい。また高山の
咽頭部には、天然痘の症状とも見える病変が見つかった。数日後、高山が死んだのと
同じ時刻に死亡した、同じ病変を持つ変死体が六体あることを知り、安藤は驚愕し調
査を始めた。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 ホラーです。**が**するという点に目をつぶれば、SFファンにも面白く読めます。
ただし『パラサイトイヴ』についていけなかったSFファンには、全くお薦めしません。
なぜなら、あれ以上にぶっ飛んだアイデアがでてきますから(笑)
 またラストの安藤が迫られる窮極の選択もなかなかよろしいかと・・・

前作の粗筋(これから前作を読もうと思っている人は読まないで下さい):
 関わりのない男女4人が、全く同時刻に心筋梗塞で死亡した。週刊誌記者である浅
川は、親友で超心理学者の高山とともに、姪が巻き込まれたこの事件を調べるうち、
これが単なる新種のウィルス感染ではなく、おぞましい超常現象であることに気づく。
死んだ4人が、同じ箱根のヴィラに一泊したことがあることを突き止めた浅川は、そ
の現場に一本の奇怪なビデオテープを発見する。そのテープの映像こそ、強姦死した
女性超能力者が怨念を込めて念写したものに他ならなかった。そして、そのテープを
見たものは、あることを実行しなければ、一週間後に死ぬ運命にあるというのだ。

☆『ウエディング・ウォーズ』草上 仁著
'95/7/*、青樹社文庫、760円(奥付に初版日が書いてないのです)
粗筋:
 近未来の日本。そこは遺伝子の異常で男女比が男100に女1という世界になって
しま
っていた。女達はその希少性を梃子にに社会で幅を効かせ、男にとって、「結婚」と
は夢
のまた夢であった。その社会で、僕は美人局から救ってくれた一人の美女と出会った。
こ
の実現するとは思えない結婚願望を持つ冴えない僕に、どうしてこんな美女が・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 肩が凝らずに軽く読めて、しかも底には異性を求めずに入られない人間種族のおか
しさ
と哀しみが流れていて、たいへんお得な作品です。ユーモアSFがお好きな方に大推
薦。


☆『GOJIRO』マーク・ジェイコブスン著
黒丸尚+白石朗訳、'95/08/5、角川書店、2300円
 黒丸氏が2/3ほど翻訳されたところで鬼籍に入られ、その後を引き継ぐ形で白石
氏が
完成されたものです。亡くなられてもう3年も経つんですね。あの特徴ある翻訳スタ
イル
が、再び読めて少しだけうれしかった(滂沱)

粗筋:
 広島の原爆投下から32年。南太平洋の放射能島で蜥蜴から進化した怪獣ゴジロと、
原爆の影響で9年間眠り続けた<昏睡少年>コモド(ある日突然目覚めてゴジロの脳
に呼びかけてきた)は、島に移り住んできた突然変異の子ども<アトム>達と一緒に
暮らしていた。コモドとゴジロは、一緒に映画を作り続け、その映画群は熱狂的なファ
ンを生んでいた。そんなある日、コモドが敬愛する女性監督(核開発のリーダーの娘
でもある)から、ゴジロの最新映画を一緒に撮らないかとの手紙が届く・・・
 「このおれ、ゴジロ<怪獣の王、アトムたちの友、ギャップの橋渡し、系のリンク
役、ビームと群の連結役、シンカの護り手>」という叫びが心に残りました。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 ピンチョン若しくはヴォネガットの直系と言われる著者のデビュー作。日本が世界
に誇る:-) ポップカルチャーであるゴジラを使い、それをさらにラジカルにし、かつ
我々の現実感をも変えようとする試みは、アヴァン・ポップ小説と呼ぶに相応しいで
しょう。

☆『シュミレーションズ』ケアリー・ジェイコブソン著
浅倉久志・他訳、'95/8/10、ジャストシステム、2600円
 ヴァーチャル・リアリテイに関する短篇を集めたアンソロジー。
 収録作品は、
「草原」レイ・ブラッドベリ
「メモリーバンクは引き出し超過」ジョン・ヴァーリイ
「ヴァーチャル・リアリテイ」マイクル・カンデル
「ドッグファイト」スワンウィック&ギブスン
「輝ける夢の脱出路」M・シェイン・ベル
「総合認識渦動装置」ダグラス・アダムス
「ブラグ・イン・ヨセミテ」マーク・レイドロー
「死後のいくつかの生」ジョージ・ゼブロウスキー
「スチールカラー・ウーマン」ヴァンダ・マッキンタイア
「凍った旅」フィリップ・K・ディック
「サイカー昇天」ダニエル・パールマン
「プリティ・ボーイ・クロスオーバァー」パット・キャディガン
「ヴァーチャルな死へのガイド」J・G・バラード
「幸福な男」ジェラルド・ペイジ

”参考文献リスト”(小説におけるヴァーチャル・リアリテイ)

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 一言にヴァーチャル・リアリテイといっても、作家により色々な捉え方があるのが
良く分かります。一番古い('50年)「草原」も確かに仮想現実の話ではありますね。
ファンタジーの範疇かも知れませんが。

☆『スキップ』北村薫著
'95/8/20、新潮社、1748円

粗筋:
 昭和40年代、一ノ瀬真理子は、高校二年生だった。体育祭が終わり次は文化祭の準
備にかかるある日、帰宅して微睡みから覚めると彼女は42歳の主婦になっていた。自
分の娘であると主張する17歳の桜木美也子にとまどいながらも、彼女はなんとか自分
を取り戻そうとするのだが・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 私が高校二年生の時は昭和44年です。そういう同時代性もあり、すぐにストーリー
に溶け込むことができました。主人公は実は25年後の世界では、国語の高校教師なん
です。高校三年生の生徒を高校二年生の"私"が教える危うさ、この設定がまた良いで
すね。
 あまり疑問を露呈することもなく、17歳だと主張する"私"の存在を優しく受け入れ
てくれる娘と夫。その後"私"は、夫と娘に助けてもらって健気にこの世界に適応しよ
うとするのですが、そこらあたりのデテールの描き方も見事です。
 展開は全くSF的ではありませんが、すべての心優しきSFファンにお薦めです。

☆『デッド・ガールズ』リチャード・コールダー著
増田まもる訳、'95/8/25、トレヴィル、2575円

導入:
 21世紀の半ば、没落しつつあるヨーロッパで開発されたドールと呼ばれる精巧な
美少女形態の自動人形が金持ちの間で人気を呼んでいた。(量子効果を利用してロボッ
トに偽物<フェイク>の意識を持たせている) 西洋vs東洋のナノテク謀略戦の果て、
カルティエ製のセクサロイド<ドール>にナノテク・ウィルスを仕込み、東洋男性を性
的不能に陥れようとするが、人間の免疫系の対応が速かったために僅かの成功を収め
たに留まった。
 いっぽう報復ウィルスが再び<ドール>に仕込まれてヨーロッパを襲った。このナノ
テク・ウィルスは、<ドール>とのオーラルセックスによって男性の精子のDNAを改
変し、宿主となった英国男性に娘が誕生すると、その娘は思春期過ぎに総て絶世の美
少女かつ凶悪無比な自動人形<ドール>に変貌するのだ。
 そうして<ドール>絶滅を計る人間戦線、ドール禍に巻き込まれないようにと<ドー
ル>の脱走を厳しくチェックする米国の政治抑圧の狭間で揺れ動く英国の少年と、彼
が恋する<ドール>に変貌した美少女の運命は・・・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 ポスト・サイバーパンクの旗手として名高いコールダー氏の第一長編。まず、日本
オリジナル短編集『アルーア』(トレヴィル刊)を読んで、慣れておいたほうが良い
かも知れません。基本的には少年と少女の叶わぬ恋の物語に還元できると思うのです
が、一筋縄ではいかない作家ですから(誉め方が悪いかも知れないけど)
 ディック氏とかシェパード氏がお好きな方にはお薦めです。

☆『鏡の中の言葉』ハンス・ベンマン著
平井吉夫訳、'95/8/25、河出書房新社、2718円
粗筋:
 とある全体主義の某国では、時制体系を厳密に規定できる言語を広める過程で行き
過ぎがあり、その反動から支配者による言語規制が行われるようになった。そしてそ
の要は、言語の多義性の否定、一義性の固守である。時制すら失われた言語を使う国
民の知的営為は枯渇し、精神は衰弱し、扱いやすい羊の群と化していた。言語大粛正
以前のすべての印刷物は、抜き出され没収された。
 とある出来事がきっかけでこの国の言語の歴史に興味を持ったアルベルトは、大学
時代の友人エルヴィンの自宅に招待される。そして彼の家の隠し部屋には、禁じられ
た言語大粛正以前の禁断の書物の宝庫であった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 SFを読み始めた頃、ヴォクトの『非Aの世界』に出会い、『一般意味論』の本を
わけもわからず読んでいた私にとっては懐かしいテーマの本です。人間が言葉によっ
て思考する以上、その言語の質によって思考が左右されるというテーマのSFでは、
ディレーニイ『バベル−17』が有名ですが、はたしてSFを書くのに最適の言語っ
てあるのでしょうか?

☆『魔法の船』マキャフリー&ナイ共作
嶋田洋一訳、'95/8/25、創元SF文庫、700円
<歌う船>シリーズ第5作
粗筋:
 宇宙船を操る<シェルパーソン>キャリエルとその相棒<ブレイン>ケフは、RPGゲー
ムが取り持つ間柄。いわば王女様と騎士。ブレインを失い忘我自失の状態にあったキャ
リエルと出会ってもう14年、二人は屈指の宇宙探査チームになっていた。さてこの
コンビ、ちと言動が不審だと監査官に睨まれて、這々の体で旧知の<シェルパーソン>
シメオンが管理するステーションを逃げ出す。目指すは、かねてよりもくろむ知的種
族とのファースト・コンタクトである。人間が来たことのないはずの惑星に降り立っ
てみると、そこには毛むくじゃらのヒューマノイドやら透明な水玉に入った蛙やらが
いた。そしてなにやら怪しげなエネルギーの乱れが観測される。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
「よく出来た科学技術は、魔法と区別けがつかない」というのはクラーク氏の言葉で
したっけ。このコンビの着陸した惑星では、まさにその言葉通りの魔法としか思えな
い力(技?)を巡って、魔法使い達の権力争いが続いているのです。さてその渦中に
おどり込んだコンビの命運や如何に・・・
 結局の処、お話の筋立てもRPGなんだわ。使うと減るエネルギーとかね(苦笑)


☆『夢の終わりに・・・』ジェフ・ライマン著
'95/8/31、早川書房<夢の文学館>、3000円
粗筋:
 『オズの魔法使い』のドロシーには実はモデルがいた。ニューヨークからやってき
てそのドロシーに出会ったフランク・ボームは、彼女を題材として後年『オズの魔法
使い』を書くことになる。両親が病死し孤児となったドロシーと愛犬トト、ドロシー
を引き取ったカンザスのエムおばさんとヘンリーおじさん、映画『オズの魔法使い』
でドロシーを演じたジュディ・ガーランドとその家族、精神障害者のためのホームで
働き始めた大学のフットボール選手のビル、『オズの魔法使い』の原作者のフランク
・ボーム、そしてエイズでホラー映画俳優のアマチュアカメラマンのジョナサン(現
代)などが織りなす物語。

ドロシーについての粗筋:
 孤児としてカンザスの伯母夫婦の家に引き取られたドロシーは、貧しさに直面する。
荒涼たる開拓地で貧困にそして社会から徹底的に痛めつけられたドロシーは、ひねく
れた暴力的な少女に育ってしまう。孤独と一人戦わなければいけなかった彼女の居場
所はただ一つ、ファンタジーの世界だった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 解説の川本さんが書かれているように、ファンタジーとは、痛めつけられた子供が、
最後に逃げ込む隠れ場所なのですね。ドロシーがジョナサンがジュディがそうであっ
たように(SFもそうかも知れない・・・)私は特に晩年のドロシーと彼女に関わる
ことになったビルのエピソードが好きです。残酷で悲しくてやりきれなくて、しかし
感動的な。

☆『竜の反逆者』アン・マキャフリイ著
小尾芙佐訳、'95/8/31、ハヤカワ文庫SF、718円
粗筋:
 婚姻と殺人と残忍な襲撃によって次々と城砦を手に入れた僭王ファックス。それに
続こうと縁談を断り、城砦を飛び出したテルガー城砦ノ太守の姉セラ。男勝りの彼女
は、無法者たちを従え、バーン全土に反逆の牙をむいた。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 お待ちかねの<バーンの竜騎士>正篇第7巻。反逆者セラを中心にした裏版<バー
ンの竜騎士>とでも言えばよいのでしょうか。セラのキャラクターを見た時<バーン
の竜騎士>も、キラシャンドラ@『クリスタル・シンガー』化するのかと思ってしま
いましたが、その懸念は当たらなかったです(笑)ともあれ、<バーンの竜騎士>ファ
ン待望の一冊。

☆『キャピトルの物語』オースン・スコット・カード著
大森望訳、'95/8/31、ハヤカワ文庫SF、560円
<ワーシング年代記>第2巻
第一部 キャピトルの物語
 銀河帝国の首都キャピトルで繰り広げられる悲劇の数々。それは、一年覚醒した後
三年の睡眠を取り、結果として数百年の人生を飛び飛びに生きることが出来る、人工
冬眠薬ソメックによってもたらされたものだった。(以下の6篇)

「水切り石のように」「第二のチャンス」「ライフプール」「ゲームをこわす」「子
どもたちを殺す」「そしてあした、わたしたちはどうするの?」
 どれもお薦めだけど、特にお気に入りなのは、障害者の父親の介護という縛めに捕
らわれた聡明な女性の悲劇を描いた「第二のチャンス」と、5年毎に3週間だけ覚醒
する大女優の生き様を描いた「ライフループ」です。あの人を喰った終わり方はたま
りません(受
けまくりました)

第二部 ウォーターズの森の物語
 前作で登場したワーシングでの悲劇の数々。それにしてもカード氏は悲劇が好きだ
なあ、それとどの作品を取っても教訓的な雰囲気が見え見えなのはしょうがないか(
以下の3篇)

「ワーシング農場」「ワーシング宿屋」「鋳かけ屋」

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
  第一感は、長編でしたが、こちらの背景を同じくする初期短篇を集めた短編集のほ
うが取っつきやすい感じです。人口冬眠ソメックは、地位の高い者、学問芸術の分野
で秀でた者しか利用できないという設定で、その権利を持たない者との間に起きる軋
轢(葛藤)をビビッドに描き出しています。
  
☆『ソリトンの悪魔』梅原克文著
'95/8/31、朝日ソノラマ、上巻980円、下巻950円

粗筋:
 21世紀初頭、八重山諸島沖で海底油田が発見され、倉瀬厚志はその採掘のため深
海基地<うみがめ200>で勤務に就いていた。その近海では、総工費20兆円をか
けた海洋情報都市<オーシャンテクノポリス>建設が着々と進行している。
 ところがある日謎の発光現象とともに、巨大な支柱が粉々に砕かれ<オーシャンテ
クノポリス>が海中に没してしまう大惨事が発生。<うみがめ200>も惨事に巻き
込まれたばかりか、潜水艇で父親に会いにやってくる途中だった倉瀬の一人娘美鈴<
メイリン>も遭難の憂き目にあってしまった。
 <うみがめ200>から疑似遠隔操作型潜水艇を使って海中作業をしていた倉瀬は、
謎の発光現象を目撃する。その光る泡を放った相手はソナーに写らないのだ。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 前作の処女長編『二重螺旋の悪魔』でSFファンの度肝を抜いた著者のノンストッ
プ・アクションSF大作です。厳密な科学考証に基づいているとは言いがたい面も少
しはありますが、ハードSFファンも普通のSFファンも驚喜すること確実な傑作で
す。

☆『急がば渦巻き』かんべむさし著
'95/8/31、、徳間書店、1553円
粗筋:
 なにごとにつけても要領が悪く、くそ真面目一辺倒な学生時代を過ごした主人公の
香取慎一は、運良く入社できた大手自動車会社の営業でも、その融通のなさが災いし
て直属の上司からイジメられ、悶々とした日々を送っていた。しかしそれを見かねた
同僚のOLが別の課の課長に紹介してくれ、彼からアドバイスを受ける。それは蚊取
り線香の収集と研究をすることだった(香取→蚊取りですね)

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 なんともけったいなお話ですが、語り口が鮮やかなのと、読後感が爽快なので面白
く読めました。かんべ氏の書いた"おたくの薦め"のようにも読めたのですけど、聞く
ところによると、小説中公で蚊取り線香を19種類も集めたと書かれていたそうです
から、単に蚊取り線香が好きなのかも知れないですね(爆笑)


☆『赤い惑星への航海』テリー・ビッスン著
中村融訳、'95/9/15、ハヤカワ文庫SF、600円
 基本的には火星に映画を撮影しに行くという著者一流のハードSF調ホラ話です。
粗筋:
 映画を撮るのが主題のユーモアSFというと、まずハリスンの『テクニカラー・タ
イムマシン』を思い出しますね。あちらは題名通り、倒産寸前の映画プロダクション
がタイムマシンを使って中世まで戻って映画撮影し、経費を安くあげようとするお話
でしたが、こちらは20年前の米ソ共同プロジェクトが破綻して軌道上に見捨てられ
ている火星宇宙船をかすめ取って、人類初の火星での映画撮影をして一儲けしようと
いうお話です。
 出てくる宇宙船というのが<メアリー・ポピンズ>といって、表面にでっかく傘を
さしたメアリー・ポピンズのペイントがしてある全長1マイルもある豪華宇宙船です。
水を加熱して噴き出し光速の4%弱のスピードを得る核推進ロケットで長期航行が可
能。食料娯楽設備も十分という設定。
 往復36ヶ月の旅で、ず〜っと起きていては退屈するので、冬眠誘発剤というもの
を使いますが、熊の血清から造ったものなので、起きた時は、木ノ実や蜂蜜が食べた
くなったりして(笑)
 あと、映画や有名SFから頂いてきたシーンもあって、最初に宇宙船の乗組員を次
々とゲットしていくところなんぞは"七人の侍→荒野の七人"そのままですね。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 SF初心者にも、マニアにもお薦めできる傑作!ビッスン氏は、SF心のくすぐり
方を心得てます。ビッスン氏の前作というと『世界の果てまで何マイル』があります
が、こちらはロードノベル+ファンタジーといった趣で、また違った味わいがありま
す(SFではないけど)  

☆『コック&ブル』ウイル・セルフ著
渡辺佐知江訳、'95/9/20、白水社、2233円
 収録作は、独立した中編2本です。
「コック 感傷的恋愛小説」
 平たく言えば、ペニスが生えた人妻のお話ですね。
「ブル 茶番劇」
 こちらは、ヴァギナが左膝の裏側に出来たラガーマンのお話でした

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 良く似た設定の『親指Pの修業時代』と比べてみると、構成展開など随分違います
ね。ジェンダーの差というより、一に著者のウィル・セルフの強烈な個性。二に英国
と日本の違い。三番目あたりに性差が入ってくるかなという感じを受けました。(な
んせ、少年時代からのヘロイン・ジャンキーだったそうですから・・・)
 SF的な展開(それを言うなら普通の小説の展開も)を予想していると完全に裏切
られます。変わった、誰にも似ていないユニークなお話を読みたい方にお薦めです(
爆笑)

☆『鳩笛草』宮部みゆき著
'95/9/25、光文社カッパノベルズ、796円
 収録作は、
「朽ちてゆくまで」
 幼いころに両親を亡くした主人公が、やがて自分の超能力とその死亡事故との関連
に思い悩み、それを乗り越える様を描いています。
「燔祭」
 ヤンキーの犠牲になり妹が殺されてしまった。その敵を討とうとする兄の前に現れ
た一見目立たない女性は、実は発火能力の持ち主であった。暴走し始めた女性とそれ
を止めようとする男の悲恋を描いています。
「鳩笛草」
 持ち物とか体に触れることによって様々なイメージを取得できる貴子は、その能力
を生かし女刑事となっていた。しかし最近その能力の衰えを覚え、しかも仕事中に昏
倒してしまうようになる。能力なしに刑事の重責が勤まるものかどうか悩む貴子を同
僚刑事の大木が支えるのだが・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 はからずも超能力を持って生まれてしまった女性たちの孤独な姿を描いた中編集。
同じく社会に出た超能力者を描いていても、マキャフリイ女史描くところの脳天気な
超能力者たちとはちと異なりますね(どちからが好きかはさておき)たまには、こう
いうしっとりとした超能力ものもよろしいのではないかと


☆『虚空王の秘宝(上・下)』半村良著
'94/9/30、徳間書店、各1600円
 『虚空王の秘宝(上)』は、『虚空王の秘宝I』('78)の改題、再版。
 で、下巻の最終章が月刊「問題小説」の'94/7に掲載されたそうですから、なんと1
6年がかりということですね。
発端:
 何者かの謀略により、罪に陥れられた露木は、伯父の手助けによりある地下組織と
接触する。その組織こそ、行方不明となった露木の父親をキャプテンとして、虚空王
の秘宝を探求する集団だった。彼等は、その秘密を狙う国家権力と虚々実々の争いを
繰り広げていた。その秘宝とは、遥かな太古に墜落した巨大宇宙船で、そのエンジン
を修理できれば、人類は夢のエネルギー源を得ることになるのだ。そしてその国家は
世界に君臨することになる。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 珍しや日本の宇宙SFものです。しかもコアSFと呼べるだけの作品は久しぶりで
はないでしょうか!しかし、同じファーストコンタクトをするにしても、アメリカと
日本では描き方がずいぶん違いますね(日本の場合は思弁的になりやすい傾向が)マ
クダウエル氏の、ファーストコンタクトがルーティンワークと化している世界はとも
かく、クラーク氏などでもあくまで科学的に相手を記述していきますよね。この本の
場合は(根底に『妖星伝』と同じ思想がありますが)異星人=人間の問題として捕ら
えられているように思いました。
 全能の宇宙船に乗った主人公が、生活世話係りのボガンと呼ばれるロボット(アン
ドロイド?)と、惑星探査に赴くシーンは、石原氏の<シオダとヒノ>のコンビを思
い出しました(^^)v(二人の会話で科学解説していく点とか、どことなく落語調にな
るとことか)

☆『七回死んだ男』西澤保彦著
'95/10/5、講談社ノベルズ、757円
粗筋:
 体質的?に一日が九回繰り返される時間の"反復落とし穴"に時々はまりこむ高校生
の久太郎は、ある時祖父が殺される日に遭遇する。資産家の祖父の命を救おうと、繰
り返される一日の中で奮闘する久太郎。最初の日には確かに祖父は次の日まで生きて
いたのだが、二巡目の繰り返される日からは、どんなに久太郎が殺人を止めようとし
ても祖父は死んでしまう。最後の決定回となる9回目に、果たして祖父が殺されるの
をくい止めるのは可能なのだろうか?

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 相変わらず楽しませてくれます。まあちょっとSF的には整合性に問題なしとはい
きませんが、この設定では許せますね。しかし、このラストの謎解きには仰け反りま
した。


☆『魂の駆動体』神林長平著
'95/10/30、波書房、1800円
粗筋:
 車が自動誘導支援装置を備えた単なる移動手段になった未来。多くの人間はHIプ
ロジェクトによって、仮想空間内の意識存在となって移り住もうとしていた。第一線
をを退いた主人公は、郊外の養老院のような集合住宅で暮らしていた。ある日、ふと
したことから林檎園で朽ち果てた自動車を見つけた主人公とその友人の二人は、昔な
がらの人間の操縦する内燃機関を備えた車の再生を試行し始めた。
 人類が滅んでしまった遠い未来、知的生命体である翼人である<キリア>は過去の
空を飛べない人類が、どのような世界観を持っていたかを研究するために、変身装置
で自らを人間の身体に改造する。そうしたある日、人類の遺跡から、化石化した設計
図が発見される。それはクルマの設計図だった。翼人達はその設計図に基づいてクル
マを造ろうと計画した。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 交通事故に留まらず、環境破壊、資源浪費などで大きく存在の意味が問われようと
している現代のクルマ達。神林さんのクルマに対する熱い愛情が感じられる作品です。
もはやクルマは「無くなることを前提とした存在」なのでしょうか・・・

☆『青い瞳のダミア』アン・マキャフリイ著
公手成幸訳、'95/10/31、ハヤカワ文庫SF、740円
<9星系連盟シリーズ>第2巻(全4巻)
粗筋:
 能力者の両親の元に生まれたアフラは、思念共感を享受しあう姉の口添えもあり、
カリストのプライムになった"銀の髪の"ローワンからT-4として採用されることになっ
た。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 「精神の邂逅」(『塔の中の姫君』所載)の長篇化。前作『銀の髪のローワン』で、
ローワンに恋愛感情を抱きながらも、信頼できる友人兼有能な部下としての役割を逸
脱しなかったアフラの視点で話が進められます。ローワンの娘ダミアの成長を見守る
アフラの心境が変わっていく様もちょっと面白いかも。肩の凝らない時間つぶしとし
ては最適。

☆『ボイド−星の箱船』フランク・ハーバード著
小川隆訳、'95/11/20、小学館地球人ライブラリー、1500円
粗筋:
 冷凍冬眠中の3000人のクローンを乗せ鯨座タウ・ケチへと航行中の宇宙船<地球人
>号。覚醒しているのは6名の基幹クルーと、三基の有機知能核と呼ばれる人間の脳
を取り出しAIと接続した人工知能だけだった。しかし有機知能核がひとつまたひと
つと発狂してしまい、クルーも6名のうち3名が死亡するという事態に陥ってしまった。
そして最後の有機知能核も暴走しクルーの手で処分されてしまう。人工知能なくして
は、タウ・ケチへの飛行は不可能と判断した彼らは、有機知能核に代わる人工意識を
作り出す試みを始めた。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 外界から隔絶された宇宙船内、そこ自体がシュミレーションかもしれないとの疑い
を抱きながら延々と続く意識に関する哲学的論議。少し古めかしいが的確な電子回路
の記述とが相まって、不可思議な雰囲気を作り上げています。どなたにでも薦められ
るという作品ではありませんが、小松御大の重厚かつ膨大な情報量が詰め込まれた作
品群がお好きな方にはたまりませんね。しかし、これだけの作品が30年も前に書かれ
ていたとは。さすがハーバート、おそるべし!

☆『引き潮のとき』眉村卓著
全五巻、第3巻'95/9/30、第4巻'95/10/31、第5巻'95/11/30
 SFマガジン'71年10月臨時増刊号掲載の、司政官が知性ある植物体の妖女にいつ
しか魅せられていくという「炎と花びら」から、『司政官』『長い暁』『消滅の光輪
(全三巻)』を経て、'83年2月号から'95年2月号まで連載された『引き潮のとき』で、
<司政官シリーズ>が一応の完結をみました。
<司政官>とは、連邦職員であり、惑星行政の専門家でもある。連邦政府になりかわ
り、ロボット官僚の助けを借りて、たった一人で植民世界を統治するのがその職務で
ある。担当する惑星では、独裁者に匹敵する権限を持つが、連邦経営機構においては
あくまで官僚の一人である。

導入:
 主人公のキタは、後進惑星タトラデンの出身でありながら、司政官を志し、努力の
末特命司政官となる。普通は、出身惑星に赴任することはあり得ないのだが、キタが
赴任を命じられたのはそのタトラデンであった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 ちと長いし、ハードカバーの昔のやつはもう新刊では手に入らないようですが、文
庫で出たら必読でしょう。日本SFの到達点を語る上でも欠かせないシリーズですね。
眉村さんの生来のテーマである、組織とその中で組織の歯車として生きる個人を描い
たインサイダーSFの傑作です。
 このシリーズのファンでもある友人は、いみじくも「<司政官>って、サラリーマ
ン社長だよなぁ」と言いました(笑)

☆『荒れ狂う深淵』グレゴリイ・ベンフォード著
冬川亘訳、'95/11/30、ハヤカワ文庫SF、780円
 前作『光の潮流』下巻で、銀河の中心へと向かったキリーン率いるテクノ遊牧民の
一行。この作品ではシボの死からなかなか立ち直れないでいるキリーンとその息子の
トビーの成長談を中心に物語が展開していきます。また前作で読者の度肝を抜いたス
ペース・ストリングスがまた重要な役割を果たします。

粗筋:
 機械生命メカの執拗な攻撃を受け銀河の中心に向かっている宇宙船アルゴ号。船に
は人間と共に、トカゲと昆虫が折衷したような異星人クゥアートが種族の代表として
乗り組んでいた。銀河の真の中心、そこには<イーター>と呼ばれる巨大ブラックホー
ルがあり、おりしも星がその餌食となっている最中であった。その想像を絶するエネ
ルギーは開闢モメントと呼ばれるある種の平衡状態を創り出した。一方<イーター>
の周辺の巨大な電磁エネルギーの嵐の中で産み出された生命体もいた。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ベンフォード氏のハードSF冒険小説の到達点を示す作品。ハードSFファン、ベ
ンフォード氏のファンにはもちろんのこと、アクション小説のファンの方々にもお薦
めできます。『悠久の銀河帝国』にも出てきた宇宙空間に住む生命体も彩りを添えて
ます。

☆『無限アセンブラ』ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン著
内田昌之訳、'95/11/30、ハヤカワ文庫SF、700円
粗筋:
 月の裏側で発見された謎の建造物。その正体を探りに出かけた三人が謎の死を遂げ
てしまう。その原因調査の依頼が、南極の隔離施設でナノマシンの研究に勤しむ科学
者に伝えられ、有能な若き弟子が月面へと派遣された。感染の危険を防ぐため厳重に
シールドされた研究所に、遠隔操作で現地の表土を採取して持ち込むが・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 謎の建造物の目的は?なぜ月の裏側に?様々な疑問をはらんだままサスペンフルに
ストーリーは進行します。ただ、結末はちょっとあっけないかなあ。 

☆『仮想年代記』<タイムマシン>生誕百年にちなんだアンソロジー
'95/12/7、アスペクト、2200円
巻頭エッセイ:『タイムマシン』生誕百年によせて(横田順彌著)
収録作品:
  「時の果の色彩」     梶尾真治
  「女と犬」        大原まり子
  「傷、癒えしとき」    かんべむさし
  「10月1日を過ぎて」  堀晃
  「わが病、癒えることなく」山田正紀

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 以上の五つの中編集です。この中ではやはり堀さんのがスケールがでかくて好きで
す。洋モノネタと思われがちなタイムマシンを題材にして、日本SFの到達点を示し
た素敵なアンソロジーです。

☆『神の鉄槌』アーサー・C・クラーク著
小隅黎&岡田靖史訳、'95/12/15、早川書房、1650円
 クラーク氏の久方ぶりの単独作品ヽ(^o^)丿
粗筋:
 2109年、火星のアマチュア天文家が太陽に接近しつつある未知の小惑星を発見した。
そのアステロイドは、惑星間天文学連合会による追加観測の結果240日後に地球と
衝突することが判明する。死と破壊の女神にちなんで"カーリー"と名付けられたその
小惑星を衝突軌道から外すために、最新のマスドライバーを搭載した宇宙船<ゴライ
アス>に特別命令が下った。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 年齢を感じさせないおもしろさです(喜)
 やはり、クラーク氏は、単独執筆に限るとの感が(笑)(某<宇宙のランデヴー・
シリーズ>の2巻目以降)

☆『魔法』クリストファー・プリースト著
古沢嘉道訳、'95/12/15、早川書房<夢の文学館叢書5>、2427円
粗筋:
 爆弾テロに巻き込まれ、それ以前の数週間の記憶を喪失した写真家グレイのもとに、
一人の女性が訪れた。スーザンと名乗るその女性は、グレイとともに、失われた数週
間を過ごし、お互いに愛し合っていたというのだ。全く記憶にないグレイは、不審に
思いながらも彼女の来訪を心待ちにするようになる。スーザンの説明によると、彼女
の元恋人ナイオールは、人々から自分の存在を消しておける力<グラマー>を持って
いて、スーザンにもまたその力があるというのだ。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 なんせあの『逆転世界』のプリースト氏の作品ですから、一筋縄でいくはずもあり
ません(爆)二転三転するストーリーは、自分の記憶の不確かさ、自分の体験してい
る世界と他人の体験している世界が違うかも知れないというこの世界そのものの不確
かさに対する疑惑が渦巻き、独特の雰囲気を盛り上げています。
 この帯にもある一般人から見えなくなる理由というのがあって、生来目立たない人
がいるというのには笑ってしまいました。destoroy夫婦は、外食に出かけてもなかな
か注文を取りにきてくれないことが多く、時には水も飲まないで、出てくることもあ
るからです。もしかして私にも<グラマー>があるのかしら(笑)

☆『ヴァート』ジェフ・ヌーン著
田中一江訳、'95/12/15、ハヤカワ文庫SF、680円
'94年度、アーサー・C・クラーク賞受賞作品。
粗筋:
 効用によって色分けされた羽で、喉の奥をなでればトリップできるという新手のド
ラッグ<ヴァート>が蔓延した未来世界。そこは現実そのものまでも浸食するヴァー
トによって、ヴァート世界と現実世界が混じり合い、ヴァート族、ゾンビ族、犬族、
ロボ族、シャドウ族、真正人間、及び各種族間の混血たちが生きている世界だった。
手に入れることがきわめて困難な黄羽<イングリッシュ・ヴードゥー>に手を出した
ばかりに、最愛の妹をヴァート世界で失ってしまったスクリブルは、妹を取り戻すた
めに悪戦苦闘する。もういちど<イングリッシュ・ヴードゥー>をものにし、妹の代
わりにヴァート世界から送られてきた<宇宙から来た物体>と再び交換するのだ。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 純SFというより、SF風味のゲームノヴェルという味でしょうか。作者は、元パ
ンクのギタリストということで、その方面に詳しい方には、おなじみの名前も頻出し
ているようです(私にはよく分かりませんが)


☆『ペガサスで翔ぶ』アン・マキャフリイ著
幹遙子訳、'95/12/15、ハヤカワ文庫SF、660円
 仕事としての超能力、第二弾^^;。前作『ペガサスに乗る』の一世代後の物語です。
時代的に言うと<九星系連盟シリーズ>の前というかその黎明期ですね。超能力者の
人権保護に忙殺される超心理センター所長の活躍振りとゲシュタルト形成の萌芽が描
かれます。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 最近のマキャフリイ女史の本は、あまり難しいことを要求しなければ面白く読めて、
ストレス解消になるかも知れないですね(笑)

☆『時間泥棒』ジェイムズ・P・ホーガン著
小隅黎訳、'95/12/22、創元SF文庫、400円
粗筋:
 ある日、ニューヨーク市の時間が遅れだしてしまった。全世界の中でこの地の時間
の流れだけが遅くなってきたのだ。しかも場所によってその遅くなる割合が異なって
いるのだ。調査にあたった著名物理学者の説によると、「異次元空間に住むエイリア
ンが、この世界の時間を少しずつ盗んでいる」のだ!

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ちょっとマッドな馬鹿SFです(爆)ホーガン氏にこういう作品があるとは知りま
せんでした。ただこの分野では先輩にあたるベイリー氏に比べるともう一ひねり足り
ないような気もしますが、この路線の次作があれば大いに期待できそうですね。


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