『二人がここにいる不思議』('88)レイ・ブラッドベリ著
伊藤典夫訳、2000/1/1、新潮文庫、705円
収録作:
「生涯に一度の夜」「トインビー・コンベクター」「トラップドア」
「オリエント急行、北へ」「十月の西」「最後のサーカス」
「ローレル・アンド・ハーディ恋愛騒動」「二人がここにいる不思議」
「さよなら、ラファイエット」「バンシー」「プロミセス・プロミセス」
「恋心」「ご領主に乾杯、別れに乾杯」「ときは六月、ある真夜中」
「ゆるしの夜」「号令に合わせて」「かすかな刺」「気長な分割」
「コンスタンスとご一緒に」「ジュニア」「墓石」「階段をのぼって」
「ストーンスティル大佐の純自家製本格エジプト・ミイラ」
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 なんていうか、ブラッドベリ氏の感性は若いときのまま止まって変化
しないんだろうか。人生に草臥れた中年男にも、まだ忘れ得ぬ夜を過ご
す権利が残っていると教えてくれる「生涯に一度の夜」。氏の昔の短編
を初めて読んだときの感慨、初めてヤングの「たんぽぽ娘」を読んだ時
の切ない気持ちを思い出してしまいました。


『二重螺旋のミレニアム』清水義範著
2000/1/20、マガジンハウス、1600円
粗筋:
 捜査七課主任の城ヶ崎は、頭を吹っ飛ばして自殺する若者の事件を捜査して
いて、違法ドラッグと遺伝子工学がこの事件に絡んでいると当たりをつけてい
た。そんな折り、政府の管轄下にある近未来研究所の左東という研究者が、彼
に連絡を付けてきた。どうもそのドラッグを服用すると他人の考えが読めるよ
うになる代わりに、酷い偏頭痛に悩まされるようなのだ。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 DNA操作、臓器移植、人工授精、テレパシー、多重人格(を呼び出してしまう)
ゲーム、催眠療法、若返り、スーパーコンピュータ内での意識を持ったプログ
ラム老人ホームを使った老人減らし等々、内容は盛りだくさんの近未来SF。
連作短編として掲載された物語ですから、しかたがない面もありますが、ちょ
っと詰め込みすぎかも知れませんね。


『模造世界』('64)ダニエル・F・ガロイ著
中村融訳、2000/1/21、創元SF文庫、580円
映画『13F』原作
粗筋:
 政府と企業が結びつき、市場調査を行うための世論調査員が大きな力を持
った近未来。電子的な仮想現実空間に人格ソフトを走らせ、より正確な市場
調査を行うためのプロジェクトが完成しようとしていた。その社会環境シュ
ミレーター、シュミラクロン-3完成直前に開発者が事故死してしまう。その
後を受け継いだ同僚のホールは、保安主任である友人からそれが事故死では
無いと告げられるものの、その直後その友人は突如消え失せてしまう。そし
て奇妙なことにだれもその保安主任を知らないと言うのだ・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 とても37年前の作品とは思えませんね。仮想現実を扱ったSFの走りの
作品でしょう。ハード的には古めかしさは隠せないものの、ストーリー展開
は面白く、ディック氏の初期の長編だと言われれば、納得してしまいそうな
完成度ですね。


《コールド・ゲヘナ》シリーズ、三雲岳人著
1巻、'99/2/25、2巻、'99/8/25、3巻、2000/1/25
1巻は、第五回電撃ゲーム大賞銀賞受賞。
設定:
 荒涼たる砂漠の惑星ゲヘナ。そこは同時に、強大な龍をはじめとする
魑魅魍魎の闊歩する世界でもあった。彼らにうち勝つ可能性のある手段
はただ一つ、人型の超高速ロボット、デッドリードライブだけだった。
 凄腕との評判を取るデッドリードライブ乗り<なまくら>バーンは、謎
の少女アイスを助けたことから、否応なくこの世界の覇権をかけて「教
団」との争いの渦中に・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 『M.G.H.』でSF新人賞を受賞した作者のヤングアダルトもの。
つぼを押さえたストーリー展開で、楽しめました。デッドリードライブ
の振るう剣が、亜光速に達して質量が増大するとかいう描写を読むと、
「そんな馬鹿な」と思いつつ、作者にのせられてしまいます(笑)
 なお番外編である『コールド・ゲヘナ あんぷらぐど』(2000/8/25)は、
バーンの古馴染みの女王メリーアンが強要された集団お見合いを描いた
爆笑短編「いつか誰かが・・・」を含む短編集です。三雲さんは、私と
笑いの波長が一致しているなぁ、この短編には悶絶してしまいました。
追記:
 これで終わりかと思っていたのですが、第四巻が出るようですね(苦笑)


『オルファフクトグラム』井上夢人著
2000/1/30、毎日新聞社、1900円
粗筋:
 片桐稔は、ある日姉の嫁ぎ先の家で、縛り付けられた姉の姿を目撃した瞬間に
何者かに頭を殴られ昏倒した。一ヶ月の意識不明状態に陥った後、目覚めた稔は、
姉があの日殺されてしまったことを知る。そして稔は、病院での光景が昔と違っ
て見えることに気が付いた。なんと稔には、匂いが"見える"ようになってしまっ
たのだ。しかもその嗅覚は、犬以上。
 そして、姉を殺した犯人は、次々と同様の手口で犯行を重ねていく。それを知
った稔は、密かに復讐を誓い、その嗅覚を使って犯人に迫る。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 いや面白いっす。犬並の匂いに対する知覚を持った主人公の戸惑いと、その異
世界を見事に描ききっています。これは、異星人を描くにも似たSFファン好み
の設定ではないでしょうか!


『彗星パニック』岬兄悟・大原まり子編
2000/2/1、廣済堂出版、600円
SFバカ本第6弾!
収録作:
「笑う『私』、壊れる私」明智妙
「江戸宙灼熱繰言」いとうせいこう
「南、もしくは」大場惑
「へル・シアター」岡崎弘明
「月下の決闘」梶尾真治
「手仕事」久美沙織
「つるかめ算の逆襲」東野司
「電撃海女ゴーゴー作戦」牧野修
「墜落」岬兄悟
「楽しい通販生活」村田基
「おれのものはおれのもの」山下定
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 「江戸宙灼熱繰言」は、江戸時代に襲来した火星人が、歌舞伎役者となり
代々藝を発展させていくというSFバカ本ならではの大傑作!これにはまい
りました。この短編を読むだけでもこの本を買う価値があります。いったい
どこからこういう発想が出てくるんだろう。
 東野司さんの収録「つるかめ算の逆襲」は、とあるラヴホテルの宿泊帳に
書かれた呪いのつるかめ算、それを読んだ者は、鶴または亀に変身してしま
うという、なんともアホらしいショートショートです。しかし、この落ちは
素晴らしい。


『<骨牌使い>の鏡』五代ゆう著
2000/2/10、富士見書房、2300円
粗筋:
 腕の良い占い師だった母の一人娘アトリは、河口の街ハイ・キレセスに住む
占い師だ。彼女は<斥候館>の女主人に可愛がられていて、今日も館の花の祭
に招かれていた。館では年下の親友モーウェンナが待っていて、彼女に骨牌占
いをせがんだ。花祭りの当日、トラブルに巻き込まれたアトリは、一人の青年
ロナーの占いをする羽目になったが、選ばれた札は不吉な<月の鎌>であった。
 館からの帰り、拉致されかけたアトリは、突然焼け付くような激痛を頭に感
じた。そうして母から受け継いだ<骨牌>が、音もなく光の粒となって消えゆ
くのを目撃したとき、ロナーが側にいた。怪我をしたロナーとアトリは、そこ
でこの世のものとは思えない奇怪な物の怪たちに襲われたのだった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 がちがちのハードSFファンにはお薦めしませんが、その他普通のSFファ
ン、ファンタジーファンには、大推薦出来ると思います。
 少女アトリの成長物語であると同時に、ラヴストーリーでもあり、なおかつ
探索と成就の面白い冒険ものでもあるという。で、この<骨牌>というのは、
タロットカードからアイデアを得て書き始められたみたいです。上の粗筋の後
は、アトリが身に潜められた力を開花させるまでと、<詞>とそれに反逆する
<異言>たちの争いに翻弄されながらも、健気に立ち向かう様が描かれていま
す。



『どすこい』京極夏彦著
力士が題材のパロディ短編集
2000/2/10、集英社、1900円
収録作:
「四十七の力士」
 吉良邸に討ち入った47人の力士たち。元ネタは、池宮彰一郎氏の『四十七人の刺客』
「パラサイト・デブ」
 洞窟に冷凍保存されていて縄文巨人。元ネタは書くまでもないですね。
「すべてがデブになる」
 外界と連絡を絶たれた密室で、デブになって死んだ二人。その謎とは。
 元ネタは森博嗣氏の『すべてがFになる』
「土<リング>俵・デブセン」
 読むと死んでしまうという噂のある小説を巡る話。元ネタは『リング』『らせん』
「脂鬼」
 死んだ人間がむくむくと太って蘇るという・・・元ネタは『屍鬼』
「理油(意味不明)」
 「脂鬼」の実作者が出てきて・・・デブだけど。元ネタは宮部みゆき氏の『理由』
「ウロボロス基礎代謝」
 ネタ晴らし的な短編。元ネタは竹本健治氏の『ウロボロスの基礎論』
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 なんちゅうか、ここまでアホらしいと凄いとしか言いようがないですね(爆)
この本だけでも楽しめますけど、元ネタを読んでからの方が十倍楽しめます。
 とくにお薦めは「すべてがデブになる」元ネタのパロディであると同時に、
人を喰った謎解きにもなっていて、抱腹絶倒間違いなしですね。


『ゼウス ZEUS 人類最悪の敵』大石英司著
2000/2/20、祥伝社、857円
粗筋:
 鎌田亮は、北海道の中学三年生。亮が通っている中学校の先生と生徒五人が
スケッチに出かけたまま帰ってこないという連絡を受け、元自衛隊機甲師団一
曹の父親と軽トラで出かけたが、延べ16000人を投入した捜索も徒労に終わった
かに見えた。四日後、女教師だけが発見され病院に保護されたが、彼女は妊娠
していて、しかもその腹が急速に膨れ、何かが腹をぶち破って飛び出て逃走し
たというのだ。実は、彼女が産み落としたのは、あらゆる動物と生殖可能で、
俊敏にして獰猛、群を作りある程度の知能を備えているという怪物であった。
 やがてゼウスと名付けられた怪物は、次々に増殖し都市部へと侵入し、北海
道は地獄と化した。警察・自衛隊の協力の下、住民は必死の反撃に出るが・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 面白いっす。ただ迫力という点では、よく似た設定の梅原さんの『二重螺旋
の悪魔』に負けているかも。父親の躾で、銃火器の扱いに長けているという主
人公の亮少年と伝説的な強さを発揮するその父親が良い味出しています。著者
は、<制圧攻撃機シリーズ>の書き手としても有名で、その知識を遺憾なく発
揮した自衛隊の対応・軍事上の作戦の描き方などはリアルで、上質のパニック
小説としてもお薦めできます。


『時に架ける橋』('89)ロバート・チャールズ・ウィルスン著
伊達奎訳、2000/2/25、創元SF文庫、960円
粗筋:
 三十歳にして妻に逃げられ、仕事も首になったトムは、故郷の田舎町に
帰り郊外の一軒家を購入し、縁故で新たな職も得て新規巻き返しを計る。
 しかしその家は長年放置されていたはずなのに内装はきれいで、床にも
ゴミ一つ落ちて無いといういささか不気味な家だった。夢のなかに奇妙な
虫たちが現れ、メッセージを伝えようとするに及んで、トムはこの家を本
格的に調べ始める。やがて現れたのは、家の地下にある秘密のトンネルだ
った。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 秘密のトンネルはどうやらアンダースンの『時の歩廊』のようなものら
しいですね。フィニイばりのノスタルジックな味わいと、未来の兵士ビリ
ーの装着するバイオ甲冑などのガジェットも取り入れた時間SFアクショ
ン小説とでも言いましょうか。時間ものファンにはお薦めの一冊に仕上が
っております。


『突入!炎の叛乱地帯(上・下)』('96)ディヴィッド・ファインタック著
野田昌宏訳、2000/2/29、ハヤカワ文庫SF、各巻880円
《銀河の荒鷲シーフォート・シリーズ》第5弾
粗筋:
 前作で太陽系の危機を救うためとはいえ、人間として許されがたい
行為を犯したシーフォート。その贖罪のため修道院入りするが、10年
後、荒廃したマンハッタン地区に住む住所不定民トランスポップ達を
救うために政界入りし国連事務総長までも務めるものの、今は引退し
て家族と共に隠遁生活を送っている。妻をめとったのは、政界入りし
てからで、彼女は宇宙軍の士官で、見習生のときにはシーフォートの
寝台仲間だった。国連事務総長になったシーフォートだが、妥協を知
らない頑迷さは相変わらずで、そのために政界を追われる羽目になっ
てしまったのだった。
 時折乱されるものの概ね平穏な生活が続くと思われていたが、側近
のアダム・テネアの息子ジャリッドが、シーフォート邸での大物政治
家の会話を盗聴してから、事件が始まる。そのネタをマスコミに売ろ
うとジャリッドは家出を敢行、それに責任を感じたシーフォートの息
子フィリップも、友人を助けるべく家出してしまう。彼ら二人が、無
法地帯であるマンハッタンで消息を絶ったことを知ったシーフォート
は、危険を省みず自らトランスポップたちが跋扈する街に潜入する。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 今回の見所は、マンハッタンを再開発したい政治家グループと、そ
こに住むトランスポップに肩入れするシーフォートとの対立の構図で
しょうか。マンハッタンは、二番目の妻の出身地でもあるし、彼がエ
ディに請われて政界入りする契機となった地区でもあります。息子の
潜入をきっかけとして再びトランスポップたちのために立ち上がるシ
ーフォート。彼に本当の安息の日々は訪れるのでありましょうか(笑)


『宇宙生物ゾーン』井上雅彦編
2000/3/1、廣済堂文庫、800円
 月刊の書き下ろしオリジナル・ホラー・アンソロジー集第15弾です。
収録作:
「火星ミミズ」江坂遊
「月に祈るもの」野尻抱介
「アカシャの花」山下定
「黒洞虫」森下一仁
「緑の星」谷甲州
「パートナー」森岡浩之
「言の実」岡本賢一
「一匹の奇妙な獣」山田正紀
「魅の谷」梶尾真治
「夜を駆けるものたち」大場惑
「破滅の惑星」石田一
「三人」田中啓文
「宇宙麺」とり・みき
「話してはいけない」ひかわ玲子
「古いアパート」竹河聖
「バルンガの日」五代ゆう
「懐かしい、あの時代」友成純一
「占い天使」笹山量子
「内部の異者」かんべむさし
「来訪者」横田順彌
「探検」井上雅彦
「安住氏への手紙」菊地秀行
「時間虫」堀晃
「キガテア」眉村卓
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 テーマがテーマだけに、SFファンに大推薦!とくに眉村卓氏や堀晃氏・
山田正紀氏の新作短編はなかなか読めないですから。できれば、もう少し長
いのを読みたいというのが本音ですけどね^^;


『エンガッツィオ司令塔』筒井康隆著
2000/3/10、文藝春秋社、1333円
収録作:
「エンガッツィオ司令塔」「乖離」「猫が来るものか」「魔境山水」
「夢」「越天楽」「東天紅」「ご存知七福神」「俄・納涼御攝勧進帳」
「首長ティンブクの尊厳」附・断筆解禁宣言
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 帯の煽り文句に「ここまで書いていいのか?あの甘美な毒!ドタバタが
帰ってきた!」とありますが、正にその通り!(笑)色々作風を変えて読者
を幻惑する作家はいますが、それは単に変化したと言うだけで、筒井康隆
氏のように、かつて書いていたブラックなドタバタを更にパワーアップし
たものも書けるし、純文学的な小説も書けるというのが、成長という言葉
本来の意味でしょうね。
 表題作は、新薬の実験台になった男の恐るべき身体の変調が、周囲に巻
き起こす顛末を描いた短編です。私の一番のお気に入りは、美貌の人妻の
外見と、あまりにも酷いの言葉遣いとの落差がとんでもなく面白い「乖離」
です。両作とも、そのエスカレーションぶりが絶妙ですね。




『フレーム・シフト』('97)ロバート・J・ソウヤー著
内田昌之訳、2000/3/15、ハヤカワ文庫SF、880円
粗筋:
 カリフォルニアのヒトゲノムセンターに勤務する遺伝子学者ピエールは、
帰宅途中のネオナチのメンバーと思われる男に襲撃されたが、一命をとり
とめる。なぜネオナチが自分を狙わなくてはならないのか、疑問に思った
ピエールは、調査を始める一方で、実父に会いに出かける。その実父は、
存命だったものの、遺伝病であるハンチントン舞踏病におかされ、常に踊
るような痙攣と記憶障害にも悩まされていた。そしてまた、ピエール自信
の発病する確率も、五分五分であった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 イントロン(いわゆるジャンクDNA)の謎を扱った作品としては、日本では
梅原さんの『二重螺旋の悪魔』などがすぐ思い浮かびますが、この作品も
また遺伝子操作と遺伝子による差別、テレパシー能力、ユダヤ人虐殺、等
々のアイデアが詰まっていて、しかもそれが有機的に結合しているという
力作です。文句無く全てのSFファンにお薦めできます。それほど蘊蓄を
かたむけているわけではないので、遺伝子のことについて聞くのが苦手で
も大丈夫です(笑)


『共生虫』村上龍著
2000/3/20、講談社、1500円
粗筋:
 中2の時から学校へ行かなくなった引きこもりの青年ウエハラには秘密があった。
 それはウエハラの祖父を病院に見舞ったとき、同室の死にかけた老人の鼻の穴か
ら白くて細長い虫が這い出てきて、ウエハラの目に入り込んだことだ。ウエハラは
この話を、外界で唯一興味を持ったニュースキャスターのサガミヨシコのホームペ
ージの掲示板に書き込みをした。その書き込みを見たという男からのメールで、謎
のハッカー集団インターバイオと出合いウエハラの運命は大きく揺れ動くことに。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 村上さんの問題意識の鋭さが十分に出された感のあるInternetの暗部を描いた作
品です。絶滅をプログラミングされた種(かつての恐竜、現在の人類)に取りつくと
いう共生虫。それを体内に飼っている人間は、殺人・殺戮と、自殺の権利を神から
ゆだねられているという。この設定が末法の現代において、なんと説得力があるこ
とでしょう。痛ましくも怖ろしい、しかし良く練り上げられた作品でする


『ミクロ・パーク』ジェイムズ・P・ホーガン著
内田昌之訳、2000/3/24、創元SF文庫、980円
粗筋:
 超小型工作ロボットを開発しているニューロダイン社社長の息子
ケヴィンは、親友のタキと会社のコンピュータを使い、マイクロマ
シンに神経接続しそれを操ると同時に、マイクロマシンの感覚をフ
ィードバックしてあたかも自分が体験しているかのように感じられ
る制御技術に磨きをかけていた。
 あるとき継母の車のトランクに、マイクロマシンを入れっぱなし
にしていたケヴィンは、それを通して継母の私生活をかいま見、彼
女の恐るべき陰謀を知るところとなった・・・
独断と偏見のお薦め度:
 二昔以上前のTVドラマ『巨人の惑星』を現代的にリファインした
感じですね。マイクロマシンに国際間の陰謀がからむと『ミクロの
決死圏』になっちゃいますが、ホーガン氏は、今回は地味目な展開
です。マイクロマシンを裏庭で操り、昆虫相手のスリリングな冒険
を楽しむというアイデアは、それなりに評価できますが、メインで
描いているのは相変わらずespionageめいたこと。今回は、国際間の
陰謀ではなく、継母vs息子という構図なんです。ちょっとスケール
がちいちゃかったかなぁ。


『稲妻よ、聖なる星を目指せ!』('96)キャサリン・アサロ著
中原尚哉訳、2000/3/31、ハヤカワ文庫SF、880円
粗筋:
 1987年アメリカ連合国、ロサンジェルス。17歳の少女ティナは、バイトの
帰りに顔見知りのいけ好かない男に絡まれるが、その危機から、これまた妙
な男に救われる。その男オルソーは、実は24世紀のロスに着陸するつもりが、
事故のためにこの宇宙に迷い込んでしまったのだった。初めはオルソーのこ
とを信用しなかったティナだが、彼の持つ多元通信機や、なによりオルソー
の目にかかる金色の瞬膜を見て彼に信頼を寄せると同時に、恋に落ちノだった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 前作が「ロミオとジュリエット」のハードSF風翻案とすれば、この作品
は、「シンデレラ」ですね。未開惑星(地球のことです^^;)の人類が、高次
生命体に見いだされて、というとコリン・ウィルスンの作品を思い起こしま
すが(大元のネタはヴァン・ヴォクトですが)普遍的なSFファンの願望なの
でしょうか?ともあれ、ハードSFとスペオペの幸福な結婚によって生まれ
た本書は、どちらのファンにも等しく愛され続ける作品に仕上がっていると
思います。特にスペオペ嫌いのハードSFファンにこそ読んでいただきたい
作品です(マジ)


『月の裏側』恩田陸著
2000/3/31、幻冬社、1800円
粗筋:
 レコード会社プロデューサーの塚崎多聞は、恩師の三隈協一郎に誘われ、
男やもめである三隈の住む箭納倉<やなくら>を訪れた。名のしれた水郷都市
である箭納倉では、老人が突然行方不明になる事件が頻発していた。しかも
その老人たちは、半月ほどでひょっこりと何事もなかったように帰ってくる
のだ。その間の記憶を無くした老人たちは、肉体的には特に変わったところ
は無いように思えた。そして老人たちの住んでいる家には一つの共通点があ
った。それは、全部の家が堀に面しているということだった。
 たまたま帰省していた協一郎の妹藍子と、地方紙の記者高安を巻き込んで
この事件を調べ始めた多聞たちの前に明らかになる恐るべき事実とは・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 フィニイの『盗まれた街』をモチーフに、日本的なホラーの要素を加味し
た傑作です。侵略する側の目的がはっきりしないと言うのは、なるほど恐い
ですよねぇ。ラストで藍子が悟る自分では確かめようのない事実こそ、その
恐怖の源でしょう。


『ダーウィンの使者(上・下)』('99)グレッグ・ベア著
大森望訳、2000/4/10、ソニー・マガジンズ、各1600円
設定:
 生物には、生物学的なマスターコンピュータがあり、有利な突然変異を計
算している。ある種のプロセッサがどこで何が変化するかを決定、あるいは
過去の進化の経験から導き出された成功率をもとに予測する。この進化のラ
イブラリは、ストレスによって生産されるホルモンに反応する。やがて個体
間で今までジャンクDNAとして隠れていたウィルスやレトロウィルスが活
性化し、情報交換される。それが一種の安足数に達したとき、ストレスから
逃れるための遺伝子アルゴリズムがトリガーとなり、ライブラリから選ばれ
た最適の進化を選択する。つまり、進化する進化・・・
粗筋:
 アルプス山中の洞窟で発見され、無許可で持ち出そうとされたネアンデル
タール人の親子と思われるミイラ。驚くべきことに両親はネアンデルタール
人と思われたのに、子供の方は現在の人類ホモサピエンスであると判定され
た。その犯人の一人、ミッチはかつて古代インディアンの骨を盗んで学会を
追放された人類学者だった。
 またグルジアでは妊婦の大量虐殺事件が明るみに出た。妊婦を流産させる
レトロウィルスが発見され、ヘロデ流感として世界中に蔓延してい
く。その発見に貢献したのが法医学と遺伝子工学寄りの微生物学者ケイだっ
た。やがてひょんなことから愛し合うようになったケイとミッチだが・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 う〜ん、進化の問題を扱っていてお話的には壮大なんですが、展開は地味
ですね。できうれば『ブラッド・ミュージック』のような作品に仕上げて欲
しかったです。でも、あのラストだと続編があるかも?


『半熟マルカ魔剣修行!』ディリア・マーシャル・ターナー著('99)
井辻朱美訳、2000/4/15、ハヤカワ文庫FT、720円
粗筋:
 少女剣士マルカは、<森>の生まれ。意地悪な魔法使いである主人から逃亡し
ている身の上で、<監視局>に追われたため、身近にあった宇宙船に飛び込んで
しまう。その船は、ロダーというアンドロイドが船長で、<監視局>と対立して
いた。そして、その船には様々な星出身の<能力者たち>が乗り組み、<魔力>で
船を宇宙に飛ばすのだった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 う〜ん、ファンタジーともSFともつかない不思議なお話ですね。生きてい
る宇宙船のエンジン、<時間操作者>、一番の驚きはマルカの本当の正体といっ
たところでしょうか。ニーヴンの《ウォーロック》シリーズや、セーバーヘー
ゲンの《東の帝国》シリーズなどがお好きなサイエンス・ファンタジー・ファ
ンには絶対のお薦め。

『神秘の短剣』フィリップ・ブルマン著
大久保寛訳、2000/4/20、新潮社、2100円
粗筋:
 精神的に不安定な母親と同居しているウィルは、怪しげな二人組の
男たちに付け狙われていた。どうも彼らは、ウィルの父親の残したな
んらかの物品を探しているらしい。家に侵入してきた男たちと出くわ
したウィルが逃げようとした時、男の一人に体当たりしたのが原因で
階段から転げ落ちてしまい、その男は死んでしまう。いまやお尋ね者
となってしまったウィルは、猫を見ている時に奇妙なことに気づいた。
猫が空中に消え去ってしまったのだ。その隙間を通り抜けたウィルは
世間の常識を何も知らない女の子に出会う。その女の子こそ、別世界
からやってきたライラだった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ん〜、子供向けだと思って読んでいるとえらい目にあいます(笑)
 ライラが、ウィルに信頼を寄せるよすがとなるのが、真理計が、ウ
ィルを殺人者だと指摘したからなんですから。いざというときは、人
を殺すのに躊躇いがないから信頼できるのかなぁ?
 あと、ライラの世界でダストと呼ばれている粒子は、この世界では
ダークマター(暗黒物質)と呼ばれています。なんとまぁ、最新の科学
も取り入れてますね。


『だれも猫には気づかない』('96)アン・マキャフリイ著
赤尾秀子訳、2000/4/20、東京創元社、1400円
粗筋:
 エスファニア公国の若きジェイマス公の摂政を勤めていたマンガンが亡
くなった。生前よりこの日の来ることを予想していた老摂政は、公国の平
安のために色々な対策を前もって講じていた。その切り札的な存在が、摂
政の愛猫ニフィだった。
 折りもおり、公国の財産を狙っていると思しき新興である隣国のエグド
リル王を狩りに招待することに。果たしてエグドリル王は、身内の三人の
うら若き乙女を連れてきた。ジェイマス公がその中の一人を気に入れば、
との思惑らしい。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 最近のマキャフリイ女史には珍しくあくの少ない展開。影になり日向に
なりジェイマス公を助けるニフィが、これまた可愛いですね。後書きにも
書かれてますが、三時のお茶の時間に、クッキーと紅茶を片手に、本書を
めくれば楽しい一時が過ごせるというものです。


『アンドリューNDR114』アシモフ&シルヴァーバーグ著('92)
中村融訳、2000/4/21、700円
ヒューゴー&ネビュラ賞ダブルクラウンの「バイセンテニアル・マン」('76)
の長篇版。同名の映画の原作。
粗筋:
 マーティン家の新しい家政夫ロボット、アンドリューは、偶然発生した回路
の不具合によって、芸術的な才能を有するようになった。彼は、ロボットと人
間の違いを研究し始め、徐々に人間ぽい行動をとるようになっていくが・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 同著者の長篇版『夜来る』に続く作品。前作と同じく、元の短編より特に感
動的になったとか、全くつまらなくなったとかいうのは無いですねぇ(笑)


『猫の地球儀 焔の章』2000/1/25、510円
『猫の地球儀 その2 幽の章』2000/4/25、530円
秋山瑞人著、電撃文庫
設定:
 人類が滅び、忘れられた巨大宇宙ステーションに生き延びている知性を持
った猫たち。残された人間の技術を使ってどうにか生き延びている猫たちに
とって、このステーションが世界の全てであり、地球にまつわる知識はタブ
ーとして封印されていた。人型ロボットを操り闘うスパイラルダイバー焔は、
怪物と称されているチャンピオンの猫と闘おうとしていた。
 一方真実を求める猫<スカイウォーカー>によって地球への道は模索され、
その成果は代々の<スカイウォーカー>に伝えられてきた。
 17代目のスカイウォーカー幽と、焔と焔に憧れる子猫の楽の人生が交叉し
たとき猫世界は新しい運命に遭遇することに・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 健気に生きる猫たちが、あまりに可愛くて切ない話です。なんで作者は
こんなに幽と焔と楽をいじめるんだ〜!可哀相やないか(泣)
 ということで、<銀河の荒鷲シーフォート>ファンには絶対のお薦め(笑)


『タイムライン(上・下)』マイクル・クライトン著
2000/5/25、酒井昭伸訳、早川書房、各1700円
粗筋:
 アリゾナの砂漠を通過中の老カップルが、さまよっていた老科学者を発見
保護するが、彼は死にかけていた。直ちに病院に運び込まれた彼の体は、医
学常識では推し量れない体のズレが見つかった。
 また、フランス南西部では、ジョンストン教授と彼のゼミの学生達が、14
世紀に焼失した修道院の発掘調査をしていた。金づるのハイテク工業ITC社か
らの呼び出しで教授は本社に赴いたが、教授の留守中に遺跡では14世紀には
あり得ない遺物が発見される。
 一方、ITCからの直接連絡で、教授が危機に陥ったので助けに来て欲しいと
の連絡が入る。取るものも取りあえずニューメキシコに飛んだ4人の大学院
生たちを待ち受けていたものとは・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 相変わらずスピード感のある展開で、す〜っと読めます。量子テクノロジ
ーで過去のフランスに飛ぶわけなんですが、作者が描きたかったのは、もち
ろん量子テクノロジーではなく、凄まじいばかりの存在感で迫り来る中世人
たちの生態でしょう。
 でも、この手の(歴史学とタイムマシンを結びつけた)お話では、やはりコ
ニー・ウィリスの『ドゥームズデイ・ブック』が、すぱ抜けているでしょう。
 それに比べるとこのクライトン氏の本は、少し物足りないです。
 アクションシーンにかまけて、中世に飛んだ主人公たちの魅力が伝わって
こないんだもの。まあ、最初から映画化が前提の、極めて映像的な本ではあ
りますが(笑)


『レキオス』池上永一著
2000/5/25、文藝春秋、2000円
粗筋:
 天久解放地に描かれた巨大なペンタグラムによって出現した鼻のない
逆立ち状態の女。それは攻撃ヘリをものともせず、忽然と消えた。一方
混血の母と黒人の父を両親に持つアメラジアンと呼ばれる少女デニスは、
天久解放地の戦闘を見た後、その逆立ち状態の女チルーに憑り付かれて
しまう。このペンタグラムは、謎の組織GATUの幹部でもある米軍将校キ
ャラダイン中佐が、沖縄の霊的エネルギー<レキオス>を自分の目的のた
めに解放しようとする計画の始まりだった・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 『バガージマヌパナス』で日本ファンタジーノベル大賞受賞の作者が
描くノンストップ伝奇アクション小説です。一番魅力的なキャラは、美
貌の天才科学者サマンサ・オルレンショー博士なんですけど、同時に彼
女はとてつもなく自己中心主義で限りなく変態という存在なんです。か
なり穿った見方になりますが、良くも悪くも、このオルレンショー博士
の変態キャラぶりが、正統派の伝奇小説の部分とせめぎ合っている部分
がこの話の特徴かな。
 伝奇小説のファンで、ヤングアダルト風の軽い描き方にアレルギーの
無い方には特にお薦め出来ます(笑)



『フューチャーマチック』ウイリアム・ギブスン著('99)
浅倉久志訳、2000/5/25、角川書店、1500円
粗筋:
 冒頭、実存社会学者山崎が、東京の地下通路にあるダンボールハウスに、
レイニーを訪ねる場面から物語は始まります。新薬の人体実験による副作用
で、膨大なデータの流れ、特に結節点を見つけだす特殊能力が発現したレイ
ニーに「あらゆるものが変化する時が近づいている」と告げ、LAのライデ
ルにコンタクトするように要請する。
 一方、要請を受けたライデルは、知り合いのミュージシャンと共にSFを
目指し、行方不明中の"アイドル"投影麗を納めたプロジェクターと遭遇。
 元バイク便の配達人シェヴェットは、ドキュメンタリー映像作家を目指し
ているテッサと同居していたが、何気なく撮られて配信された映像がもとで
元ボーイフレンドのカースンに居所をつかまれてしまっていた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 相変わらずの心地よいキブスン調。"リゲイン"や"コンビニ"に多大な関心
を持っているのはわかるんだけど、SFとしてはダイナミックで無いなぁ。
 データの流れをコントロールする結節点を探し出す能力は良いとしても、
それをいかに使って干渉するかが、ストーリー上の問題だと思うのだけども、
それほど変化が無いですね。今回レイニーは、居なくても同じだっのかな。
 ナイフの名人謎の殺し屋"まぼろしの男"の不思議な存在感が印象に残りま
した。とにもかくにも、新電脳三部作が角川から揃い踏みしたので、ギブス
ン・ファンの方は必読でしょう。


『首の信長』小林恭二著
2000/5/30、集英社、1800円
収録作:
「筑波嶺日記」芸妓の筑波嶺の描く幕末の志士たちの真実の姿とは(爆)
「聖者伝」平安の世の空海vs最澄の闘い。
「怨霊巌流島」平家の怨霊の盤踞する巌流島の戦い
「首の信長」幾ら守ろうとしても切り落とされる信長の首の秘密とは
「忍者の恋」大阪城天井裏に潜む忍者の見いだした軟派道 :-)
「新源氏物語」源頼義が創始とされる処刑道(拷問道)
「24人の稗田阿礼」実はビリー・ミリガンだった稗田阿礼
「妖異記」大奥を追い出された女房たちの末路とは
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 小林恭二氏の描く爆笑日本史(毒入り危険)


『銀河おさわがせマネー』('99)アスプリン&ヘック著
斉藤伯好訳、2000/5/31、ハヤカワ文庫SF、820円
粗筋:
 かつての銀河一のダメ中隊から、エリート(?)中隊へと変貌を遂げた
オメガ中隊。現在は、成り行きからカジノ経営をやっているが、またぞ
ろ問題続発。ヤクザに眼を付けられたスシ、かつての度が過ぎた悪戯が
もとで暴走族たちから付け狙われるハリー。そしてネコのような運動能
力を持った異星人と、トカゲタイプの異星人が、新兵として入隊してき
て、てんやわんやの騒動に・・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 七年間のご無沙汰の後、やっと刊行された<おさわがせ>シリーズ(笑)
 今回もカジノ経営からアミューズメントパークと、軍隊とは関係なさ
そうな分野を取り上げ、フール大尉の手腕が冴えるといったところ。
 う〜ん、こういうのは難しいっすね。カジノ経営なりテーマパークの
経営を成功させる新しいアイデア自体が、読者をして成る程と納得させ
るものでないといけないから。そして、そのアイデアはそんじょそこら
に転がっているようなものでは無いし・・・ということで、前二作より
若干パワーダウンですが、ユーモアSFファンには、大推薦ですね。


『斜線都市(上・下)』('97)グレッグ・ベア著
冬河亘訳、2000/5/31、ハヤカワ文庫SF、各巻800円
粗筋:
 ナノテクとセラピーが普及した未来のアメリカ。成功したと見られるセラ
ピーの後、何故か退行現象を引き起こす患者が急増してきた。
 『女王天使』から七年後、シアトル公共安全保障局四等官となったマリア
は、担当となった猟奇殺人事件の捜査をするうちに、大富豪クレストが関わ
っているとの情報をつかみ彼の自宅へと向かうが、まさにその時、クレスト
は全感覚ソフトYoxのポルノ女優と同衾後、自殺してしまう。
 一方、一年半に渡る思考停止後に復活した思考体ジルは、未知の思考体か
らコンタクトを受ける。それはこれまでに確認されてない思考体だった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
<ナノテク/量子理論>シリーズの一冊。年代順に並べると
女王天使→斜線都市→凍月→火星転移
となります。ん〜、面白い。各登場人物の書き分けも見事なんだけど、もう
一つ物足りないなぁ。その理由はキャラが、たってないことに尽きると思い
ます。マリア・チョイ捜査官は魅力的なんだけど、ここでは何にもしないう
ちに話が終わってしまいます(汗)やはり本当の主人公は霊廟オムロパスと未
知の思考体ロディと軍事用ナノなんでしょうね。しかし、ナノに感情移入し
て読むわけには(笑)


『シビュラの目』フィリップ・K・ディック著
浅倉久志他訳、2000/6/15、ハヤカワ文庫SF、740円
'63〜'87年発表の日本独自に編まれた短編集
収録作:「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」「宇宙の死者」
    「聖なる争い」「カンタータ百四十番」「シビュラの目」

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 「カンタータ」は、ディック氏には珍しいタイプの陽気なドタバタ劇。
しかもなんとハッピーエンドです。巻末の浅倉さんの解説によると、この
短編が元となった、アンハッピーエンドの長篇版もあるみたいですね。さ
すがディック(笑)


『巡洋戦艦<ナイキ>出撃!(上・下)』('94)デイヴィッド・ウェーバー著
矢口悟訳、2000/6/30、ハヤカワ文庫SF、各660円
<紅の勇者オナー・ハリントン3>
粗筋:
 グレイソン攻防戦から一年後、ようやく体調と心理状態もほぼ元に戻った
オナーは、最新鋭の巡洋戦艦<ナイキ>の艦長として軍務に復帰し、新しい提
督のもと参加者と訓練を繰り返し、望外の成果を上げるまでになっていた。
 一方、経済情勢の悪化を隠すための対外戦略を画策するヘイヴン人民共和
国は、国民の不満を逸らすために、大々的なマンティコア侵攻作戦が立案・
実行されようとしていた。
 とある事情から王国防衛の最前線基地ハンコック駐屯地に向かったオナー
を始めとする機動戦隊は、戦略上の要請からオナー航宙軍宙佐の率いる一個
戦隊を残して、他星系へと出払ってしまうとことに・・・

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 三作目となって、やっと男っ気の無かったオナーに恋人出現ヽ(^o^)丿
 ヘイヴン人民共和国の内情や革命組織など、敵役の肉付けにも抜かりはあ
りません。まあ、アメリカと違って日本ではこういうポリティカルな側面を
詳しく描くというのは、作品の面白みを殺ぐという一面もありますけど :-)

 『M.G.H. 楽園の鏡像』三雲岳斗著
2000/6/30、徳間書店、1600円
第一回日本SF新人賞受賞作!
粗筋:
 鷲見崎凌は、材料工学研究室の大学院生で助手をしているが、ある日
四歳年下の従妹、森鷹舞衣に日本初の滞在型宇宙ステーション「白鳳」
に行かないかと誘われる。確かにとんでもない額の料金を支払えば、民
間人でも宿泊は可能なのだが。しかし、舞衣の話を聞いて凌は、さらに
驚く羽目になった。なんと政府の主宰する、結婚するカップルを招待す
る出生率低下対策事業キャンペーンに、書類上だけの新婚カップルとし
て応募し「白鳳」にハネムーンで行こうというのだ。
 舞衣のことを女性としては意識したことがないが、憎からず思ってい
た凌は、材料工学の権威朱鷺任数馬博士に会える可能性があるとあって
承知してしまった。「白鳳」を訪れた二人は、無重力ホールで与圧服を
着たままの死体に遭遇する。しかもその所見からは、無重力ホールであ
るにも関わらず、墜落死としか思えなかったのだ。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 いいですね、これ。正統派SFミステリの王道ですわ。あのクラーク氏
を彷彿させる作品に仕上がっております。謎解きは、理系の読者なら途
中で気が付くかもしれませんけどね(笑。私は、最初の謎は途中で分かっ
たんですが、二番目は分かりませんでした)かなりかみ砕いて説明してあ
りますので、科学に弱い読者にも薦められると思います。
 野尻抱介さんや笹本祐一さんの宇宙小説がお好きな方には特にお薦め。


『殺竜事件』上遠野浩平著、金子一馬イラスト
2000/6/5、講談社NOVELS、880円
粗筋:
 ロミアザルスは僻地の独立都市。大国に囲まれたこの田舎街が独立を維持していられる
のも、この度戦時調停の地として選ばれたのも、この街に竜が棲んでいるからだ。百万の
軍勢をも凌駕し、天変地異ですらも歯牙にかけない竜の存在こそが、まさに絶対不可侵の
ものであり、調停の場として相応しいからだ。それとこの街の竜は、あと六匹居る他の竜
と違い比較的人間の近くで暮らしていて、生まれて直ぐの赤ん坊を口の中に入れ安全を祈
願するという風習を許しているほどであった。
 調停の地として使うという断りを竜に伝えるため、洞窟に赴いた特務仕官レーゼ・リス
カッセ、 風の騎士ヒースロゥ・クリストフ、 戦地調停士エドワース・シーズワース・マ
ークスウィッスルこと通称EDは、不可侵のはずの竜の刺殺死体を発見する。しかも、竜
殺しの犯人として疑われた三人は、土地の者に呪いをかけられ一ヶ月のうちに真犯人を挙
げなくてはいけない羽目に陥ってしまった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 《ブギーポップ》の作者が贈る、珍しやミステリ・ファンタジーです。この竜殺しの真
犯人探しがメインの粗筋です。謎解きは正統派で、動機という点ではちと弱いものの、手
段はかなり考えられていて、唸らされました。主人公三人のキャラが少し軽いのがちと難
点かな(作者がそういう書き方がお好きなようだから、しょうがないですけど)


『エンデュミオン エンデュミオン』平谷美樹著
2000/6/8、ハルキノベルス、1390円
粗筋:
 21世紀初頭、地球と月世界上で不可思議な事件が頻発する。共通項は"セレネ"
と"エンデュミオン"だったが、その関連に気付いたものは居なかった。
 月面基地エンデュミオンの完成に関わった元宇宙飛行士たちは、その事件が、
人類の市域から放逐され月を最後の砦とする神々の意志であることを知り、大統
領の依頼にのって、セレネとの交わりを感じる少年ヤンとともに、再び月へと旅
立つのだが……
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 神々の扱い方からは、ちょっとブラッドベリ氏の雰囲気が感じられますが、
展開はけっこうハードで重厚そのもの。そのギャップを気にしなければ、楽しめ
る作品だと思います。これがデビュー作だということですので、期待度大ではあ
りますね。


『星虫』岩本隆雄著
2000/6/30、朝日ソノラマ文庫、571円('90/7/25、新潮文庫、466円)
背景:
 20世紀末、宇宙関連計画が画餅と化した感のある時代。数年前に日本の山中で五千
年前に落下したものと思われる宇宙船が発見された。その山の所有者である女性に50
兆円が支払われ、国連の研究下に置かれたもののおそらく強行突入の影響によるもの
のと思われる緊急離陸とその後の大爆発によって宇宙船は消滅してしまう。しかしこ
れ以後、地球外文明の存在は認知されることとなった。
粗筋:
 宇宙飛行士を夢みる友美は高校生。模範的な優等生を演じるその裏で、体を鍛え飛
行士になるのに必要と思われる勉学に励む女子高生だった。ある日友美は公園で流れ
星に遭遇する。しかしその輝く小さな星は、友美の顔に突進し額の中央に居座ってし
まう。この現象は世界中で報告され、ほとんどの人がその<星虫>を額に付けることに
なった。それはホストの感覚を増大させ、神の贈り物とまで呼ばれるが、やがて巨大
化するにつれ、人々に拒絶されるようになる。ホストに拒絶されると<星虫>は、あっ
けなく額から転げ落ちその生命を終えるのだった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 え〜っと、再刊なんですけど、ジュヴナイルSFとしてだけではなく、感動を呼ぶ名
作SFが再び読めるようになったので、取り上げてみました。
 世界中の人々が<星虫>を拒絶していく中で、<星虫>を信じ、最後のホストになって
いく友美と広樹の健気さが感動を呼びます。SFならではの成長物語と言えますね。


『アース・リバース』三雲岳斗著、中北晃二イラスト
2000/7/1、角川スニーカー文庫、533円
第五回スニーカー大賞特別賞受賞作品
粗筋:
 見渡す限りのドロドロに融けた灼熱の溶岩とそれによる熱対流。
 凄まじい磁気嵐と暴風が吹き荒れる世界、そこが炎界<フレームシー>
だ。そこで生存を許された人類は、基底部に取り付けた巨大な超伝導ア
ンカーのマイスナー効果により浮上している直径10キロもの鋼鉄の島の
住民たちだけだった。同じ様な要塞島<リダウト>との攻防に明け暮れる
シグは、この過酷な環境で飛行できる唯一の兵器デミ・エンゼル(人型
航空兵器)乗りだが、ある日領空に侵入してきた敵を追いつめた際に、
不時着した敵機から這い出した少女を助けてしまう。本来なら即座に殺
さなければならない敵を助けたことによって、シグ自身も追われる立場
となってしまうのだが・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 魅力的な設定のライト・ノベルです。基本的には、ヒーローがヒロイ
ンを救いだし、新しい世界を目指すという古来からのパターンなのです
が、色々楽しめる仕掛けがありますね。この設定を活かして三雲岳斗さ
んお得意のSFミステリも期待したいところです。


『虚無回廊3』小松左京著
2000/7/8、角川春樹事務所、1600円
初出は「SFアドベンチャー」'91/12〜'92秋季号
粗筋:
 大きさが数光年にも及ぶ謎の円筒形物体SSに派遣された人工実存HE2。
 SSにコンタクトしたHE2は、同じように調査に派遣されてきた様々な知性体
(40万平方キロの"森"など)と遭遇し、情報交換と今後の方針の決定のために
各自の"知的主体"をセンターに転送して、そこで会議を行うことに……
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 丁度10年前の作品ですが、古さは感じさせません。でも、物語は端緒にかか
ったばかり、この先どうなるんでしょうね。ということで、結末がついてない
物語を読むのは嫌いだと言う方にはお薦めしかねますが、問題作です。


『隠し部屋を査察して』エリック・マコーマック著
増田まもる訳、2000/7/25、東京創元社、1900円
収録作:「隠し部屋を査察して」「断片」「パタゴニアの悲しい物語」
「窓辺のエックハート」「一本足の男たち」「海を渡ったノックス」
「エドワードとジョージナ」「ジョー船長」「刈り跡」「祭り」
「老人に安住の地はない」「庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド」
「庭園列車 第二部:機械」「趣味」「トロツキーの一枚の写真」
「ルサウォートの瞑想」「ともあれこの世の片隅で」「町の長い一日」
「双子」「フーガ」
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 想像力の極北に鎮座するようなへんてこなお話を書くことにかけては、この
マコーマック氏は、相当なものです。例えば一番SFファンむけの「刈り跡」は
ある日突然出現した幅百メートル、深さ三十メートルの巨大な溝が、時速千六
百キロの速さで、まるで皮をむくように地球の表面を移動していく話です。で
もみんな驚かないし、<刈り跡>で遊ぶ人が出てきたり、犠牲者の家族たちも、
あまり死を悼んでいなかったりするところとか。やはり変な人です(笑)


『パヴァーヌ』キース・ロバーツ著
越智道雄訳、2000/7/30、扶桑社、1429円
サンリオ文庫のラスト('87)となった世界改変モノの幻の名作の再刊です
設定:
 1588年、エリザベス一世が暗殺され、カトリック教会の支配下に入った英国。
 20世紀に入った英国も、科学技術の発達は抑制され、異端審問が社会に暗然た
る影響を与えていた。
収録作:
「<レディ・マーガレット>」路上を走る蒸気機関車の運転士ジェシーは、とあ
る安酒場の女給に愛を告白するが…
「信号手」全国土に張り巡らされた腕木信号塔は、無線通信の無いこの世界での
唯一の遠隔通信手段だが、少年レイフは、その信号手に憧れてギルドの門をくぐ
ることになった。
「ジョン修道士」石版印刷に優れた才能を発揮する田舎のジョン修道士は、中央
の教会から請われて異端審問の絵を描くことになった。
「雲の上の人々」英国でトップの蒸気機関車会社ストレンジ親子商会の社長とな
ったジェシーの姪のマーガレットの小話。
「コーフ・ゲートの城」ストレンジ一族の末裔で、コーフ城の女領主でもあるエ
リナーは、不作の年だと言うことを無視したローマの税負担要求に腹を立て、そ
れに応じない腹づもりを決めたが……
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 極めてリアルに描かれたもう一つのイングランドの歴史です。どの中編も味わ
い深く、心打つものばかりですね。コアSFとは呼べませんが、目指す方向性は同
じだと思います。


『ピニェルの振り子』野尻抱介著
2000/7/31、朝日ソノラマ、495円
《銀河博物誌1》
設定:
 ダルトン連合王国は、今から112年前、西暦1883年のイングランドから、
意識を失ったまま連れてこられた80万人が元になっている。彼らは、衣服
と携帯品のみで見知らぬ惑星に拉致されたのだった。当面の食事は、ペー
スト状のもので提供され、その惑星の動植物は食料になった。
 人口が激減したため、失われた知識は多かったが、新たに得られた知識も
多々あった。祖国の形態を模して樹立された立憲君主国であるダルトンは、
国王が君臨し、地球の19世紀と同程度の文明を持つまでに発展していた。
 ある鉱山で発見された<シャフト>と呼ばれる宇宙船のモノと思われる核構
造体は、外部からの磁力に反応し、自在に推力を生み出し、その表面は空気
を浄化する働きがあったのだ。
発端:
 画工モニカは、博物商のラスコーと共に、海洋惑星ピニェルにやってくる。
 一方、地元の採集人スタンは、特産のペラム蝶を採取し売り込みにやって
くるが、モニカに一目惚れし交易船に密航してしまう。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 いろいろと考えながら読める作品です。星間渡航手段を持たない地球人が
宇宙船を手にしたらというとオールドファンなら『天翔ける十字軍』とかを
思いだしちゃうでしょうね。スタンとモニカの成長譚であると同時に、野尻
さんお得意の異星生命体の描き方も上手いものです。
 この作品の著者インタビューは、以下で読めます。
http://wwwsf-fantasycom/magazine/interview/000901html


『ウィーンの血』エイドリアン・マシューズ著
嶋田洋一訳、2000/7/31、ハヤカワ文庫NV、900円
粗筋:
 2026年暮れ、新聞記者のシャーキーは、偶然知り合ったコンピュータマニアで
ある男が交通事故で死んだことを、その妻から知らされる。彼女は、夫が殺され
たのではないかとの疑いを持ち、彼に調べてくれないかというのだった。シャー
キーは、調査を進めるうちに、その妻と夫が生まれた病院から出生に関わる隠匿
された秘密があることに気が付く。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 ラストの謎解きそのものには、う〜んと唸らされますが、その謎そのものには
あまり驚かされませんね。このアイデアだと某映画(名前を明かすとネタバレ)の
方がずっとインパクトがありました。あと、スローガラスを出すなら、リーパー
の夜間カメラは、当然スローガラス製にしなくっちゃ、SFファンに対する配慮不
足というもの(笑)


『永遠の森 博物館惑星』菅浩江著
2000/7/31、早川書房、1900円
第54回日本推理作家協会賞、第32回「星雲賞」受賞
設定:
 博物館惑星とは、ラグランジュ3に浮かぶ、小惑星<アフロディーテ>。
オーストラリアとほぼ同じ表面積を持つこの岩の表面には、およそ科学で実現
できるあらゆる環境が設定され、地上はもとより宇宙からも集められた様々な
動植物・美術品・音楽や舞台芸能に至るまで、ありとあらゆる物質と情報が網
羅された一大博物館を形成しています。
 その内部は、音楽・舞台担当の<ミューズ>、絵画・工芸の<アテナ>、動
植物の<デメテル>という三つの専門部署に別れそれぞれが専用のデータベー
スを直接頭脳に接続した学芸員が、分析鑑定・分類収納保存に務めています。
 主人公の田代孝弘は、<アフロディーテ>に搬入された物品を専門部署に割
り振り、各部署間の調停役を果たす<アポロン>に勤務する学芸員です。そこ
のデータベース<ムネーモシューネ>は、各専門データベースに上位アクセス
が可能で、田代たちは、かなり特権的立場にいるにも関わらず、各部署間の綱
引きや美術品・芸術にからむ複雑な問題で頭痛の種の尽きることはありません。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 '93/2〜'98/7まで、SFマガジンに連載された短編に、書き下ろしの「この
子はだあれ」を加えた連続短編集。
 とくに書き下ろしの「この子はだあれ」は、主人公孝弘の学芸員として人間
としての成長物語であると同時に、人形の出所を探すというミステリにもなっ
ています。それに、学術員の本当の能力とはという問いの答えにもなっている
という練りに練った構成ですね。人形の表情が、***だったのは、実は…という
謎解きは、本当に素晴らしいと思いました。
 この作品の著者インタビューは、以下で読めます。
http://wwwsf-fantasycom/magazine/interview/000801html


『冥王と獣のダンス』上遠野浩平著
2000/8/25、電撃文庫、570円
粗筋:
 絶対真空の宇宙空間から襲い来る虚空牙によって地球上に封じ込められてしまった人類
。やがて文明は逆行し、以前の世界とは様変わりした群雄割拠の時代の後、<奇蹟軍>と
いう奇怪なエネルギーを利用する集団と、かつての超文明の生き残った自動生産プラント
を軸とする<枢機軍>の二つが、真っ向から対立していた。
 五年以上の戦歴を持つ<枢機軍>の臨時少尉とはいえ、まだ18になったばかりの青年ト
モルは、胸騒ぎを感じていた。一方<奇蹟軍>では、凄まじい<奇蹟>能力が使える戦略
奇蹟使いたちが、<枢機軍>を待ち受けていた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 この後、何を思ったか<奇蹟軍>のICBM級の奇蹟使いの兄妹が<枢機軍>に投降してき
て、勢力バランスが変わったりするのですが、メインはトモルと心を閉ざした奇蹟使いの
少女夢幻の切ない心のさざめきでしょうね。
 ライトノベルファンのみならず、少年少女の心を失っていない全てのSFファンにお薦
めします。


『ラヴクラフトの遺産』R・E・ワインバーグ&M・H・グリーンバーグ編
夏来健次・尾之上浩司訳、2000/8/25、創元推理文庫、1000円
ラヴクラフト生誕110周年記念アンソロジー
収録作:
「序―H・P・ラヴクラフトへの公開書簡」ロバート・ブロック
「間男」レイ・ガートン
「吾が心臓の秘密」モート・キャッスル
「シェークスピア奇譚」グレアム・マスタートン
「大いなる"C"」ブライアン・ラムレイ
「忌まわしきもの」ゲイリー・ブランナー
「血の島」ヒュー・B・ケイヴ
「霊魂の番人」ジョゼフ・A・シトロ
「ヘルムート・ヘッケルの日記と書簡」チェット・ウィリアムスン
「食屍姫メリフィリア」ブライアン・マクノートン
「黄泉の妖神」ジーン・ウルフ
「ラヴクラフト邸探訪記」ゲイアン・ウィルスン
「邪教の魔力」エド・ゴーマン
「荒地」F・ポール・ウィルスン
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 ラヴクラフトとクトゥルー神話というと、ホラーファンではなくても一度
は読んだことのあるサブジャンルだし、SFへの影響も少なからずあると思い
ます。題名の“ラブクラフトの遺産”とは「ラブクラフト的なるもの」とい
う意味であって、決してクトゥルー神話だけを意味してはいないようです。
 巻末の「荒地」は、荒れ地で年に二回見られるという松光(Pine Lights)の
謎を追い求める男と元恋人の話。ウィルスン氏にしては地味な展開ですが、
読ませます。


『影が行く』<ホラーSF傑作選>中村融編訳
2000/8/25、創元SF文庫、920円
収録作:
「消えた少女」('53)リチャード・マシスン
「悪夢団」('70)ディーン・R・クーンツ
「群体」('59)シオドア・L・トーマス
「歴戦の勇士」('60)フリッツ・ライバー
「ボールターのカナリア」('65)キース・ロバーツ
「影が行く」('38)ジョン・W・キャンベル・ジュニア
「探検隊帰る」('59)フィリップ・K・ディック
「仮面」('68)デーモン・ナイト
「吸血機伝説」('63)ロジャー・ゼラズニイ
「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」('32)クラーク・アシュトン・スミス
「五つの月が昇るとき」('54)ジャック・ヴァンス
「ごきげん目盛り」('54)アルフレッド・ベスター
「唾の樹」('65)ブライアン・W・オールディス
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ホラー系SFを独自編纂したアンソロジー。やはり「影が行く」は名作だなぁ。
一番好きなのはヴァンスの短編。一つでも狂気に関係するという月が五つもあっ
たら、それは大変なことが起こります。いつもながら異世界の描写に心躍らされ
ます。「唾の樹」はネビュラ賞受賞した短編で『宇宙戦争』と『神々の糧』への
オマージュかな。これも好編です。


『鵺姫真話』岩本隆雄著
2000/8/31、朝日ソノラマ文庫、571円
粗筋:
 星々の世界に生き残る術を見いだそうと始められたプロジェクトシティ。近視
というハンデのため、そのプロジェクト・スタッフ養成学校試験に落ちた川崎純
は、故郷の高牧市の高校に帰ってきた。純の祖父が神主をつとめる姫森神社のご
神木は、樹齢四百年の楠で、地元では二十五年の寿命と引き替えに願を掛ければ
願いが叶うと信じられていた。
 ある日、境内で少年が巨大な女の生首に追いかけられているのを目撃した純は
驚いた。まさにその様子は、代々伝わる絵巻物に描かれた鵺姫伝説の一シーンの
ままだったのだ。その少年もろとも、戦国時代にタイムスリップしてしまった純
の運命や如何。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 出だしが『星虫』の設定を活かしたSF調。で、途中からファンタジー調。物
語としてはけっこう読ませるんですが、全編ファンタジーとして統一したほうが
完成度が上がるかなと感じました(『星虫』と『イーシャの船』とは無関係の物語
にしちゃうとか)


『ぼくらは虚空に夜を視る』上遠野浩平著
2000/8/31、徳間デュアル文庫、590円
粗筋:
 ごく普通の高校生である工藤兵吾は、ある日同級生の景瀬観叉子から「この世界は
カプセル船の中で凍結されている人々が夢みる世界に過ぎず、工藤と景瀬の実体は、
その巨大宇宙船を、敵<虚空牙>から守る超光速戦闘機ナイトウォッチのパイロット
だ」という話を聞かされる。現実だと思っていた高校生活も、絶対真空の虚空に人間
が発狂してしまわないようにスタビライザーとしてコンピュータが設えた仮想世界だ
った。その瞬間、宇宙空間で展開される戦闘シーンに転移した工藤は、パイロットと
しての本領を発揮する・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ある日下駄箱に入っていた別のクラスの女の子からのラヴレターと思しき手紙から
始まり、宇宙空間での戦闘シーンまでがシームレスに続くどことなく非現実的な世界。
あの《ブギーポップ》でも見られた、ディックにも共通するシュミラク(偽物)ぽい感
覚がさらに研ぎすまされて完成度を増してます。雰囲気的には、コードウェイナー・
スミスの「鼠と竜のゲーム」と山田正紀の『チョウたちの時間』とヴァン・ヴォクト
が得意の貴人漂流譚が合わさったような感じと言えばお分かり頂けるでしょうか。う
うむ、余計にわけわかかな(苦笑)


『制覇せよ、光輝の海を!』キャサリン・アサロ著
中原尚哉訳、2000/8/31、ハヤカワ文庫SF、各巻800円
<スコーリア戦史3>
粗筋:
 一作目で、惑星近くで超空間遷移を試みて死亡されたと考えられている
ソズとジェイブリオルの二人は、ローン系サイオンの子宝にも恵まれ、未
開惑星で幸せをはぐくんでいた。
 一方、スコーリア王クージとユーブ帝圏皇帝コックスは、ともに第一王
位継承者を失い対立は深まるばかりであった。策略から、連合圏の暗号を
入手したユーブ帝圏は、それを利用してスコーリア王を目標とした作戦を
実行に移した・・・
独断と偏見のお薦め度:
 とまあ色々ありまして、結局は夫君のジェイブリオルを拉致されたソズ
が、怒り心頭に発して、自ら指揮を執り戦闘に赴くのです。う〜ん、格好
良いぞ、惚れちゃうなぁ。
 だいたい若いSFファンというのは、強くて美しいお姉さまに憧れます
よね。私の若かった頃だったら、"ビジンダー"とかヽ(^o^;)丿


『侵略者の平和 第一部 接触』林譲治著
2000/9/18、ハルキ文庫、580円
粗筋:
 数百年前に、那國文明圏が発射した無人恒星間探査船が発見したエキドナ文
明。早速編成された合同調査隊は、衛星ラミアで、エキドナ文明の技術水準で
は製造不可能な核融合炉・大規模マスドライバーの遺跡を発見する。
 一方、だいたい産業革命後の技術水準を持っているとされるルゴフ王国(エキ
ドナ文明圏)では、奇矯な行動から電波姫とも呼ばれる天才科学者シズノ姫が、
異星の侵略に備えての準備を固めつつあった・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 冒頭の深宇宙での探査船の描写に惚れました(^o^)/やはり、宇宙SFは、こ
うでなくちゃ。
 この本の著者インタビューは、以下のサイトでご覧になれます。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/001202.shtml


『ハリー・ポッターと秘密の部屋』J・K・ローリング著
松岡佑子訳、2000/9/19、静山社、1900円
粗筋:
 ホグワーツ魔法学校の一年生を終えて、夏休みに突入したばかりの
ハリーは、例によってマグル(魔法の血が一滴も流れてない)のダーズ
リー一家のもとに下宿していた。相も変わらぬ無理解と意地悪にめげ
ずに頑張るハリーだったが、ある日『屋敷しもべ妖精』のドピーが現
れ「ホグワーツに戻ってはいけない」と言われる。
 ドピーの使った魔法のせいで、部屋に監禁されることとなったハリ
ーの元に、親友のロンが空飛ぶ車に乗って助け出しにやってくるが、
ロンの親父さんは、魔法省の「マグル製品不正使用取締局」勤務だっ
たとはヽ(^o^)丿
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 現在映画公開がされている『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の続編。
 魔法学校の生徒が次々と襲われたのは、封印されている謎の部屋を
解き開いた者の仕業だと言われた事件があり、巻き込まれたハリーは、
やむなく真相究明に乗り出すといったところかな。相変わらず、快調
な展開ですね。個人的には、口ばっかりで、全然実力の伴わないギル
ディ・ロックハート先生のキャラが大好きですヽ(^o^;)丿



『海底密室』三雲岳斗著、大本海図イラXト
2000/9/21、徳間デュアル文庫、762円
粗筋:
 海底四千メートルで深海底生活圏実験計画が行われている実験施設
<バブル>。取材でそこを訪れようとしていた鷲見崎遊は、二週間前に
常駐スタッフの一人が謎の死を遂げていたことを知らされる。鍵をか
けられた密室での死ということで、警察では自殺として処理されてい
た。一緒にバブルへと向かう人たちは、交代要員と、死んだ須賀の弟
も兄の死んだ場所をどうしても見たいということで参加していた。
 しかし、部外者の二人を迎えたバブルの閉じられた密室でまた死亡
事件が起こったのだった・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 前作『MGH』と同じく、厳密に設定されたSFミステリの傑作で
すね。鷲見崎遊(『MGH』の主人公は鷲見崎凌)の持つ携帯末端は、
御堂健人の人格を複製したアプリカントが動いているのですが、この
AIと協力して事件の解明にあたっていきます。バブルのハッチが自動
的ロックされるところなど、良く「細部に神は宿る」と言いますが、
まさに細々とした科学的設定を積み上げて現実感を醸し出しています。
 まあ個人的には、動機そのものはちょっと弱いかなぁと言う感じは
受けましたが、広くお薦めできるSFミステリに間違いありません。


『魚藍観音記』筒井康隆著
2000/9/30、新潮社、1300円
収録作:
「魚藍観音記」「市街戦」「馬」「作中の死」「ラトラス」
「分裂病による建築の諸相」「建物の横の路地には」「虚に棲むひと」
「ジャズ犬たち」「谷間の豪族」
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 表題作は、童貞歴一千年の孫悟空が観音様といたしてします話です(笑)パロディ
駄洒落のオンパレードで、筒井先生ますますパワーアップの感あり。特に文中の“て、
鉄の陰茎お許しを”には参りました(元ネタはキャプテンフューチャーものの短編「鉄
の神経お許しを」)。あと、面白くて物悲しい「ジャズ犬たち」も大好きな短編です。
 しかし、老いてなお初期の作風の作品も書かれて、しかもこれだけのパワーが
あるというのは、つくづく筒井先生は凄いと思います。昔からの読者としては、ただ
もう嬉しくて嬉しくて。


『SFの殿堂 遙かなる地平1』『SFの殿堂 遙かなる地平2』
ロバート・シルヴァーバーグ編、小尾芙佐他訳、2000/9/30、ハヤカワ文庫SF、各880円
ハヤカワ文庫三十周年企画。冒頭に各作者の紹介文つき。
収録作:
「古い音楽と女奴隷たち」アーシュラ・K・ル・グィン
「もうひとつの闘い」ジョー・ホールドマン
「投資顧問」オースン・スコット・カード
「誘惑」ディヴッド・ブリン
「竜帝の姿がわかってきて」ロバート・シルヴァーバーグ
「眠る犬」ナンシー・クレス(以上1)
「ヘリックスの孤児」ダン・シモンズ
「いつまでも生きる少年」フレドリック・ポール
「無限への渇望」グレゴリイ・ベンフォード
「還る船」アン・マキャフリイ
「ナイトランド−<冠毛>の一神話」グレッグ・ベア(以上2)
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 執筆者全員がネビュラ賞・ヒューゴー賞受賞者で、全篇がSFの人気シリーズ
の続篇・枝篇の書き下ろしという豪華アンソロジー。まあSFファンなら説明無
用で読むっきゃないでしょう(笑い)


『ギャラクティックの攻防(上・下)』デイヴィッド・ファインタック著
野田昌宏訳、2000/9/30、ハヤカワ文庫SF、各820円
<銀河の荒鷲シーフォート6>
粗筋:
 国連事務総長として三期目を迎えたシーフォートも還暦を過ぎてはいたが
政治的な妥協をせず、正義と信ずる方向に邁進する姿勢は相変わらずだった。
 ところが彼が宇宙軍士官学校訪問の最中に見習生が殺害される事件が起き
た。一方、過激な<環境保護同盟>は、巨大戦艦ギャラクティックの建造に反
対しテロによって対抗するとの声明を出していた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 相変わらず頑迷なシーフォートですが、今回はテロで重傷を負わされてし
まいます。しかも息子のフィリップは<環境審議会>のメンバーで、家を出て
からまる三年経っているという設定です。今回も主要登場人物がバタバタ死
にます。心して読まれるように(苦笑)でも、面白いんだよなぁ、これが。

『ナース』山田正紀著
2000/8/28、ハルキ・ホラー文庫、571円
粗筋:
 ジャンボジェットが、標高千メートル級の山中に墜落し、その救助活動に
四駆で向かう日本赤十字の七人の看護婦たち。いたるところにあるパトカー
の赤色回転灯が闇を照らし出してはいるが、闇に浮かぶ通称「極楽袋」と呼
ばれる死体収納袋はそのたび毎に位置を変えていた。なぜバラバラになった
手足や首や臓器が独りでに消えてしまうのか。「地獄だわ」と准看護婦の愛
子が呟いた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 ノンストップ・ナースアクションかな。基本的にはホラーなので、つじつ
ま合わせは、最初から期待しないように(笑)
 なんたって、医者も警察も自衛隊も裸足で逃げ出すほどの地獄図絵のなか、
自分たちの使命を全うすべく化け物に立ち向かう看護婦さんたちのキャラが
最高です。まさに白衣の戦士とはこのこと。文句なくお薦め。


『セカンド・エンジェル』フィリップ・カー著
東江一紀訳、2000/9/30、徳間書店、1800円
粗筋:
 月面の洞窟内部に設えられた流刑コロニーには、常時3000人以上の受刑者
が収容されていた。その一人ケイヴァーは、岩石破砕機に肘の部分まで噛み
砕かれて手術を受けようとしていたが、なんと彼は現在では珍しいRES一級(
P2ウィルス未感染)血液の持ち主であった。
 2069年、バイオテクノロジー関連会社の防犯システム設計者であるダラス
は、遺伝的な血液疾患を持って生まれてきた娘が原因で会社から命を狙われ
ることになる。P2感染者たちが住む危険地帯に逃げ込んだ彼が立てた作戦と
は……
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 この時代、人類はP2ウィルスという、10〜15年の潜伏期間の後感染者を死
に至らしめるウィルスによって、二つの階層に分かれています。80%を超える
感染者たちと、RES一級と呼ばれる非感染者たち。この病気の治療方法はただ
一つ、特効薬の投与とともに、全血を健康な血と交換すること。そのためRES
一級の血液は、金以上の価値を持つことになり、投資や投機の対象とされて
います。この貴重極まりない血液を蓄えておく血液銀行の防犯システムを設
計する仕事をやっているのが、主人公の一人であるダラスなんですが、この
異様な設定を活かし、著者は小気味よいテンポで話を進めていきます。そし
てラストでもあっと驚く展開が(笑)

『黄泉がえり』梶尾真治著
2000/10/15、新潮社、1700円
粗筋:
 熊本市の市役所では、不思議な電話を受けた。それは数年前に鬼籍には
入った家族が戻ってきたので、戸籍を回復して欲しいという市民からの電
話であった。やがて、この現象は熊本市に限定されるものの、老いも若き
も、死んだ当時そのままの姿で黄泉がえってきているという事実が判明す
る。しかし、黄泉がえった人々は、姿形はそっくりで、本人しか知らない
秘密の事柄も記憶しているのだが、何故か微妙な違和感が付きまとってい
るというのだ。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 良いですねぇ、ラストの方は涙を流し頷きながら読んでしまいました。
 骨子となるストーリーは、昔からあるSFの王道なんですけど、登場人
物がみんな魅力的で優しくて……全員に感情移入しちゃいました。

『ファンタジイの殿堂 伝説は永遠に』1,2巻、ロバート・シルヴァーバーグ編
風間賢二・幹遙子他訳、2000/10/15、740,760円
1巻収録作:
「エルーリアの修道女」<暗黒の塔>スティーヴン・キング
「第七の神殿」<マジプール>ロバート・シルヴァーバーグ
「笑う男」<アルヴィン・メイカー>オースン・スコット・カード
「薪運びの少年」<リフトウォー・サーガ>レイモンド・E・フィースト
2巻収録作:
「骨の負債」<真実の剣>テリー・グッドカイン
「放浪の騎士」<氷と炎の歌>ジョージ・R・R・マーティン
「バーンの走り屋」<バーンの竜騎士>アン・マキャフリイ
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 人気ファンタジーシリーズの外伝を書き下ろしで集めたアンソロジーです。
 SFファンだと、こちらを先に読んで、面白かったら本編を読むという掟破りな
読み方もお薦めかなも(笑)

『地球環』堀晃著
2000/10/18、ハルキ文庫、820円
収録作:
「恐怖省」「地球環」「最後の接触」「骨折星雲」「宇宙猿の手」「猫の空洞」
「蒼ざめた星の馬」「過去への声」「宇宙葬の夜」「虚空の噴水」「柔らかい闇」
「バビロニア・ウェーブ」
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 大脳皮質と連動した脳内コンピュータ、情報省との通信装置を体内に内蔵し、
自身の情報識別能力も格段に訓練された人間=情報サイボーグ。この情報サイボ
ーグ・シリーズ全12篇に、星雲賞受賞の長編版の原型となった「バビロニア・
ウェーブ」(短編版)を収録。'70年の「恐怖省」から、2000年の「柔らかい闇」
まで、30年間の集大成。日本にはスティーブン・バクスターが居ない、とお嘆き
のハードSFファンに、ぜひ読んでいただきたい短編集です。壮大な、それでい
て繊細な情感あふれる短編群が、あなたを待っています!
 この本の著者インタビューは、以下でご覧になれます。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/001201.shtml

『人喰い病』石黒達昌著
2000/10/18、ハルキ文庫、540円
収録作:
「雪女」「人喰い病」「水蛇」「蜂」
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 現役外科医の描く不思議な世界。まあこれだけ医学考証がきちんとした小説は
あまり無いと思います。そういう点からもハードSFファン向けかなあ。個人的
には、低体温症の女性にまつわる謎と悲劇を描いた「雪女」が一番読み応えがあ
りました。研究対象にのめり込んでいく医師の心の葛藤がよく描けています。
 なお「蜂」は前短編集『新化』に収録された「カラミ蜂との一日」を一人称で
書き直したものです。


『ラクトバチルス・メデューサ』武森斎市著
2000/10/18、ハルキ文庫、740円
粗筋:
 ダムで自殺したフィルス乳業の研究者は「野に放たれしメデューサの群れに釈
尊の導きあらんことを」と書かれた遺書を残していた。そして奥飛騨地方の病院
では、全身が白く石膏状になった鼠や猫犬などの死体が見つかっていた。さらに
内臓、性器が全身が石化してしまい死に至る病気が頻発を始める。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 現役内科医の描くバイオサスペンス。なんかフィルス乳業って、雪印乳業を連
想させるなぁ。迫力はあるし、考証もしっかりしているし、これもハードSFフ
ァン向けかも知れません。でも、私が医学の端っこにいるからであって、一般の
人が読むと、その医学描写にちと辟易するかも知れませんね。

『紫の砂漠』松村栄子著
2000/10/18、ハルキ文庫、820円
設定:
 通常人間は生まれたときには性別がない。一生に一度の《真実の恋》
をして生涯の伴侶を定めたとき初めて<生む性>と<守る性>に分化する。
どちらの役割を担うかは、幾ばくかは本人たちの意志も関与するとされ
ている。
 七歳までの子供は、生きること以外に仕事は無い。七歳になると、子
ども達は全員<聞く神>の元に集められ、<告げる神>によって運命の親の
元に授けられるのだ。
粗筋:
 入ることはタブーとされている紫の砂漠のはずれ、村人が塩取りで生
計を立てている塩の村のシェプシは、砂漠を眺めているのが何より好き
な七歳の子供だった。前年に砂漠で光る音響盤をみつけたシェプシは、
それを巫祝に見せ、神の元に返す約束をしていた。
 ある日、砂漠から詩人=<聞く神>の使いがやってくるのに出くわした
シェプシは、自分の運命が大きく転換していくのを知る・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 芥川賞受賞作家の描く、リリカルでファンタジックな世界。ジェンダ
ーと血縁による家族制度も崩壊しているように見えるこの社会で、真実
の恋と若者の成長を描いたこの作品は、ファンタジーの衣を被ってはい
ますが、その骨格(伝説)には、確固たる裏付けがあり、SFファンにも
推薦できますねヽ(^o^)丿


『八月の博物館』瀬名秀明著
2000/10/30、角川書店、1600円
粗筋:
 1859年のエジプト、副王から発掘の独占所有権を許されている考古学者のマリエ
ットは、ナイル川で盗掘品を運び出そうとしている船から発掘品を取り上げていた。
 いっぽう、デビュー後たった五年にして小説に行き詰まり、ノンフィクションで
は鳴かず飛ばずになってしまった元ベストセラー作家のトオルは、ふとしたことか
ら国立博物館の大恐竜展を見に行き、小学六年生のころを思い出す。
 六年生の亮は、一学期の終業式の帰り、普段通らない道を通りそこで古い洋館に
立ち寄るった。そこで不思議な少女美宇に出合い、その洋館が《博物館の博物館》
であることを教えられる。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 一部メタフィクション的な味わいのある本書は、ジュヴナイルの形を借りた<物
語論>であると同時に、瀬名さんの新境地でもあります。SFと幻想味がほどよくブ
レンドされて読みやかったです。しかし文中で、瀬名さんを連想させる主人公のト
オルが、もう小説に行き詰まっていると書かれているのはなんなんでしょうね。瀬
名さんには、最先端科学を取り入れた本格SFもぜひ書いて貰いたいのですが。

『ブルー・プラネット』笹本祐一著
2000/10/30、ソノラマ文庫、495円
星のパイロット4
粗筋:
 老朽化したハッブル宇宙望遠鏡の回収作業を請け負ったスペース・
プランニング社。それを地上で支援するマリオのもとに、ジェット推進
研究所のスウが、とんでもない裏情報を持ち込んできた。それは地球型
惑星の発見を目的として秘密裏に打ち上げられた軍事衛星のデータだっ
た。スウの話に乗ったマリオは、社の新型パラボラアンテナを駆使して
その衛星にアクセスしようと試みるが・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 彗星をゲットして、ジャガーノートが出てきて、やはり次ぎに来るも
のは、恒星間宇宙旅行でしょうヽ(^o^)丿この巻も、宇宙空間の描写は
最小限に押さえて、マリオとスウの溢れんばかりの宇宙への情熱が、熱
く物語られます。とくに、ラストのレーザーセイラーの発射シーンには、
胸が熱くなりますね。


『エンダーズ・シャドウ』オースン・スコット・カード著
田中一江訳、2000/10/31、各巻720円
 名作『エンダーのゲーム』を、エンダーの副官を勤めたビーンの目から描いた物語。
粗筋:
 ロッテルダムの街に、餓死寸前の一人の少年が居た。四歳になる彼は、見た目
は二歳児程度の大きさしかなかったが、その知力は誰にも負けてはいなかった。
 彼は、孤児として生まれ、よちよち歩きしかできない頃に身の危険を感じ病院
を脱走したのだった。ストリート・キッズの仲間になり、その才覚で以前には大
きい乱暴な少年が独占していた給食所で配給を受けられるようになった彼の属す
るグループは、やがてシスター・カーロットの目を引くこととなった。そしてそ
れは、ビーンのバトル・スクールへの道を開くことに・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 う〜ん、文句無しに面白いです。エンダーよりもさらに過酷な運命を背負わさ
れたビーン少年の生き様は、ある種の感動をも呼び起こしますね。問題があると
すれば、カード氏の描き方もあるのでしょうが、ビーンがあまりに子供らしく無
い点かな。まあ、ビーンやエンダーが子供じゃなくても、物語の本質的な部分は
成り立つと思いますが、読者に対するインパクトは弱くなると思います。
 SFを愛する、少年の心を持ったSFファン全員にお勧めできる傑作です。


『ワイルド・レイン』全巻、岡本賢一著、ハルキ文庫
一巻<触発>、2000/9/18、660円
二巻<増殖>、2000/10/18、680円
三巻<覚醒>、2000/11/18、667円
設定:
 26世紀、強大なエネルギーをもたらす謎のテグタニオ空間を発見した人類は
その力を我が物にしようとする勢力が暗躍していた。反粒子工学の権威バリー
博士の一人娘が誘拐されて体内に爆弾を仕掛けられたため、バリー博士はやむ
なくテグタニオ空間にアクセスするためにレインに協力を求めた。レインこそ
は、かつて人類として一度だけテグタニオ空間との接触を果たした最強のサイ
能力者だったのだ。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 全体的な雰囲気としては、同じ著者の『タイムクラッシュ』に似ていますね。
 スペース・アドベンチャーを謳っていますが、現実感が乏しく(これは作者の
狙いどおり)読む人に、果たして何が起こるのかと不安がらせる仕掛けがそここ
こに(笑)メタフィクションがお好きな方には大推薦できます。

『20世紀SF1 1940年代 星ネズミ』中村融・山岸真編
2000/11/2、河出文庫、950円
収録作:
「星ねずみ」フレドリック・ブラウン、「時の矢」アーサー・C・クラーク
「AL76号失踪す」アイザック・アシモフ、「万華鏡」レイ・ブラッドベリ
「鎮魂歌」ロバート・A・ハインライン、「美女ありき」C・L・ムーア
「生きている家」ウィリアム・テン、「消されし時を求めて」A・E・ヴァン・ヴォート
「ベムがいっぱい」エドモンド・ハミルトン、「昨日は月曜日だった」シオドア・スタージョン、
「現実創造」 The New Reality チャールズ・L・ハーネス
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 十年ごとに各時代の代表短編を集めたアンソロジー。やっぱりこういう短編集は必要ですよね、ベテラン読者にもSF再入門としてお役に立てます(爆)

『異形コレクション ロボットの夜』
2000/11/9、光文社文庫、838円
収録作:「サージャリ・マシン」草上仁、「卵男」平山夢明、「自立する者たち」斎藤肇、
「保が還ってきた」菊地秀行、「夜のロボット」石田一、「小壺ちゃん」梶尾真治、
「夜警」青山智樹、「METAL KINGDOM」奥田鉄人、「サバントとボク」眉村卓、
「背赤後家蜘蛛の夜」堀晃「LE389任務」岡本賢一、「KAIGOの夜」菅浩江、
「2999年2月29日」渡辺浩弐、「錠前屋」高野史緒、「ケルビーノ」安土萌、
「木偶人」横田順彌、「人造令嬢」北原尚彦、「上海人形」速瀬れい、
「蔵の中のあいつ」友成純一、「缶詰28号」江坂遊、「真夜中の庭で」本間祐、
「虹の彼方に」奥田哲也、「カクテル」井上雅彦、「角出しのガブ」竹河聖
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 やはり時間とかロボットとか宇宙生物とかがお題目の時は、SFファンにとって
好ましい短編が集まりますね(笑)個人的には、草上さんの短編が一番のお気に入
り、SFファンに広くお薦めです。


『奇憶』小林泰三著
2000/11/10、祥伝社文庫、381円
祥伝社文庫15周年記念特別書き下ろし作品の一冊(税込み400円の中編小説)
粗筋:
 藤森直人の子供時代の記憶には、天にかかる月はふたつあった。
 大学入学を機にいまのアパートに移ってきたのだが、プライドだけは高い
のに元々自堕落な性格が災いして、掃除もしない部屋はちらかし放題、おま
けにアルバイトに精を出したために、大学の出席も滞りいつしか友人たちと
も話が合わなくなって・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 大学時代に一人暮らしをした経験のある男性なら、主人公のあまりのだら
しなさぶりに、ある種の感慨と懐かしさを覚えるのではないかと(笑)
 謎の老婆“よこつしこめ”が誘う一種のパラレルワールドものと言えると
思います。その根底にある設定が、小林さんらしくハードSFしていて、普
通のホラー小説だと思っていると足下をすくわれてしまいます(それも狙いの
ひとつなんでしょうけど)
 この本の著者インタビューは、以下で読めます。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/010301.shtml


『ファウンデーションと混沌』グレッグ・ベア著
矢口悟訳、2000/11/15、早川書房、2200円
<新・銀河帝国興亡史2>第2弾。
粗筋:
 ハリ・セルダンは、第一・第二ファウンデーションの設立に向け着々と準備
を続けていた。心理歴史学の指し示す通り、リンジ・チェン公安委員長によっ
て告発され、帝国の滅亡を予言したことで裁判を待つ身になっていた。
 一方最高権力者の代理人であるロドヴィク・トレマは、研究船の船客として
超空間を跳航中に、ニュートリノの大波を浴びてしまい、他の乗組員が全員死
亡してしまう事態に陥っていた。
 その頃帝国では、ロボットを狩り出すには精神感応力者が必要と見なしたフ
ァラド・シンター顧問官が、最強のテレパシー能力者ヴァラ・リンを操り、帝
国内に潜んでいるはずのロボットたちを一掃しようとしていた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 今回はハリ・セルダンvs政敵の争いに加うるに、人間を操ることによって人
類の幸福を目指すダニールを筆頭とするジスカルド派と、あくまで人間の自由
意志を尊重するキャルビン派というロボット同士の対立が描かれています。こ
れに能力者の結社が加わり結構賑やかな展開となっていますが、なんか政治ゲ
ームに終始していて、人類の行く末を俯瞰するという本来の目的が失われてい
るような気も(笑)『サイティーン』などのパワーゲームがお好きな方には文句
無く推薦できます。

『SFバカ本 黄金スパム篇・宇宙チャーハン篇』岬兄悟・大原まり子編
2000/11/17、メディアファクトリー、各1400円
<黄金スパム篇>収録作品
「ステレオタイプ・ワールド」安達瑶、「はなのゆくえ」矢崎存美
「秒を読まれる」大場惑、「とんべい」岡崎弘明
「ムカつく男」藤水名子、「旅人算の陥穽」東野司
「特別廃棄物」友成純一、「収穫」岬兄悟
「実存うにょーくん」小室みつ子withうにょーくん
<宇宙チャーハン篇>収録作品
「スペース・ストーカー」谷甲州、「アンテナおやじ」岡崎弘明
「マゾ界転生」森奈津子、「もちつもたれつ」岬兄悟
「ヘルシー家族」村田基、「メロディー・フィアー」牧野修
「超人の代償」高井信、「宇宙親善料理」岡本賢一
「われはなまはげ」高瀬美恵、「お熱い本はお好き?」館淳一
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/3
 谷さんの作品は、なんとスケールのでかいストーカー(笑)相変わらず良い味
出している岡崎さん。


『侵略者の平和 第二部 観察』林譲治著
2000/11/18、ハルキ文庫、580円
粗筋:
 那國内の勢力争いから、エキドナ文明と交戦状態に入った那國文明圏
(テクサカーナ市)は、圧倒的戦力で王宮を制圧、ルゴフ王国を手に入れ
た。しかし、翻訳機の不調で、交渉が難航していた。
 一方、筆頭教授マーサは、遺跡から発見されたミイラのDNAが、人間の
DNAとほとんど一致することに驚く。エキドナ人の発祥の謎は・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 ちょっと、政治とか戦闘とかメカに話が割かれすぎていて、肝心のスト
ーリーが進捗してないぞ〜。テランとメシアン、それと軍事専用語である
ミコラ(バベル−17を思い起こさせますな)に関する考察を書いてくれた
方がヽ(^o^;)丿

『イーシャの船』岩本隆雄著
2000/11/30、朝日ソノラマ文庫、619円
'91年に新潮文庫から出たものの大幅改訂版
粗筋:
 銀色に輝く宇宙島。直径1km、長さ3km、三万人の移民を受け入れる予定の
コロニーにある立入禁止の植物保育地区。その深い森のなかに設えられたガ
ラクタで一杯の四角い空き地にぽつねんと建つ倒壊寸前のほったて小屋、そ
の謎解きの物語がいま始まる。
 天の邪鬼伝説が色濃く残る<入らずの山>。産業廃棄物処理場が作られる
ことになったその場所で、工事責任者の加賀山和美は、途方に暮れていた。
 側溝に脱輪した彼女の傍らを通り過ぎようとした車に乗っていた大男宮脇
年輝に助けられた和美は、彼に工事現場の落としたノートパソコンを拾って
きてくれるように頼んだ。まさかそれが原因で天の邪鬼に取りつかれようと
は、神ならぬ年輝に知る由もなかった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 面白い・楽しい・ハッピーエンドである。懐かしさいっぱいの青春SF小
説だと思います。『星虫』『鵺姫真話』とのリンクも見事です。まあ、ちと
やりすぎの感はありますが(笑)

『<柊の僧兵>記』菅浩江著
2000/11/30、徳間デュアル文庫、590円(再刊)

『天界を翔ける夢』デニス・ダンヴァーズ著
2000/11/30、川副智子訳、ハヤカワ文庫SF、960円

『ハッカー/13の事件』J・ダン&G・ドゾワ著
2000/11/30、扶桑社ミステリー文庫、781円
収録作:
「クローム襲撃」ウィリアム・ギブスン
「夜のスピリット」トム・マドックス
「血をわけた姉妹」グレッグ・イーガン
「ロツク・オン」パット・キャディガン
「免罪師の物語」ロバート・シルヴァーバーグ
「死ぬ権利」アレクサンダー・ジャブロコフ
「ドッグファイト」マイクル・スワンウィック&ウィリアム・ギブスン
「われらが神経チェルノブイリ」ブルース・スターリング
「マシン・セックス〔序論〕」キャンダス・ジェイン・ドーシイ
「マイクルとの対話」ダニエル・マーカス
「遺伝子戦争」ボール・J・マコーリイ
「スピュー」ニール・スティーヴンスン
「タンジェント」グレッグ・ベア
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 コンピュータと犯罪を扱ったSFアンソロジー。読んだことのある名作と初出の作品
が並んでいます。マコーリイの短編は、彼らしく生物学的サイバーパンクとでも呼べ
るような傑作です。しかし、ベアの「タンジェント」は名作には違いないのですが、
サイバーパンクかぁ?(笑)

『真夏のホーリーナイト』東野司著
2000/11/30、徳間デュアル文庫、790円
粗筋:
 かえでのために小さな妖精ロボットを作り、天国に召されたゆきたろう。それから
八ヶ月、かえではまだ覚えていた。
 公共施設管理プログラムをハッキングした中学生二人が見た龍の正体とは。
 動くはずのない自動販売機の失踪事件。公共施設のネット異常。これらの不思議な
事件を結ぶものは一体何か・・・
 電脳トラブルの解決を仕事とした民間企業『ページ11』の大空藤丸は、コンビニ
の前に設置されていたはずの自動販売機が忽然と姿を消した事件を調査していた。そ
の自販機の通信ログに残された謎の言葉「聖夜に・・・」の意味するものは何なのか?
不思議な 事件を結ぶ糸が指し示す悲しい事実とは一体・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 む〜ん、待ちかねました(^o^)/《ミルキ〜ピア》ファンお待ちかねの東野司さんの
新作です。主人公は、秀人君ではないものの、よく似たキャラ(笑)の藤丸君。
 しっかりものの女社長も配して期待度大です。
 舞台は《ミルキ〜ピア》シリーズと同じ世界。ただし、年代的にはちょっと後の設
定みたいです。さあ、皆さん。お楽しみはこれからですよ〜!
 この作品に関する著者インタビューは、以下で読めます。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/010102.shtml

『20世紀SF2 1950年代 初めの終わり』中村融・山岸真編
2000/12/4、河出文庫、950円
収録作:
「初めの終わり」レイ・ブラッドベリ
「ひる」ロバート・シェクリイ
「父さんもどき」フィリップ・K・ディック
「終わりの日」リチャード・マシスン
「なんでも箱」ゼナ・ヘンダースン
「隣人」クリフォード・D・シマック
「幻影の街」フレデリック・ポール
「真夜中の祭壇」C・M・コーンブルース
「証言」エリック・フランク・ラッセル
「消失トリック」アルフレッド・ベスター
「芸術作品」ジェイムズ・ブリッシュ
「燃える脳」コードウェイナー・スミス
「たとえ世界を失っても」シオドア・スタージョン
「サム・ホール」ポール・アンダースン
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 ん〜、良いなあ、'50年代の名作は。懐かしくもあり、しかも感動的でもある。
 SFファンなら、押さえておくべき名作揃いです。広く大推薦できますね。

『the TWELVE FORCES』戸梶圭太著
2000/12/5、角川書店、1600円
粗筋:
 めぼしい業績を上げてない冒険家鶉山晴男は、大富豪のネイサン・ランドルフ
に招致される。その仕事とは、南米のジャングルで「地球を守る仕事」につくと
いうものだった。そこで考古学と歴史学の専門家のロシア人ワリーニャ博士が発
見した光るゼリー様の物質を見せられる。その物体は高さ15m、幅30mで仄かに緑
色の発光をするゼリーの小山だった。しかも、なんとそのゼリーは、古代人が造
り上げた二酸化炭素除去装置だというのだった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 一癖ある登場人物が、奇天烈な設定のなかで縦横無尽に動き回るといいましょ
うか(笑)スピード感はあるんですが、個人的にはもうすこし落ち着いた展開の方
が好きなんですけどね。雰囲気的には池上永一さんの『レキオス』に近しいもの
を感じました。

『エリ・エリ』平谷美樹著
2000/12/8、角川春樹事務所、1900円
第一回小松左京賞受賞作品
粗筋:
 東北の寒村歌詠崎の教会の神父である榊和人は、心のどこかで<神の不在>を感
じ、己の信仰に自信をなくしかけていた。
 宇宙船の推進システムの特許を持ち、SF作家でもあるクレメンタインは、ラグ
ランジュ点で進行中の外宇宙探査プロジェクトへの参加を認められ、その準備に
明け暮れていた。精神病医であるタウトは、アプダクション<宇宙人による誘拐>
の治療専門医として名を馳せていたが、その実、自分自身も宇宙人によって皮下
にインプラントを埋め込まれたことを信じていた。
 プロジェクトが進むある日、地球が大量のニュートリノ嵐に見舞われ、その原
因が、太陽系外から侵入してきた人工物体によるものと推定された。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 小松左京賞らしい重厚なテーマの作品です。前半は、地味だけど興味深い進行
を見せますが、地球外からの巨大宇宙船(?)が登場するにおよび、一気にSFらしく
なってきます。でも、実際のファーストコンタクトはこんなものかも知れないな
という感想もある反面、もっとドラマチックな終わり方は出来なかったのかとも
思います(笑)著者は、前作『エンデュミオン エンデュミオン』の時より格段に上
手くなっているだけに、ちと食い足りない感じも。しかし、平谷さんからは、目
が離せませんよ。


『ドームズデイ』浦浜圭一郎著
2000/12/8、ハルキノベルズ、857円
第一回小松左京賞佳作受賞作品
粗筋:
 2001年、商業複合地域オリオン・ガーデンは突然、直径376m、高さ188mのドーム
型に切り取られ、突破不可能なピンクの壁によって外界から閉ざされてしまった。
その中は、住民たちがいみじくも<天使>と呼ぶ球体により、死者が甦りおぞましい
姿で徘徊し、生存者を喰らう地獄図となっていた。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 似たような設定のジョン・E・スティスの『マンハッタン強奪』がありますが、
あちらが極めてオーソドックスなSF的進行を見せるのに比して、こちらはドーム内
に閉じこめられた人間模様を描くことに力が注がれています。このドーム内の出来
事とは、我々人類が今のところ<宇宙船地球号>に縛り付けられていることを鑑みれ
ば、何を意味しているかは一目瞭然ですね。面白いんですが、ちと胃にもたれるか
も。

『2001』日本SF作家クラブ編
2000/12/15、早川書房、2200円
日本SF作家クラブ編アンソロジー
収録作:
「あした」新井素子
「ゴシック」荒巻義雄
「なんと清浄な街」神林長平
「ハル」瀬名秀明
「異星の人・ふたたび」田中光二
「彷徨える星」谷甲州
「ドリームアウト」野阿梓
「猫の天使」藤崎慎吾
「逃げゆく物語の話」牧野修
「龍の遺跡と黄金の夏」三雲岳斗
「旅人の願い」森岡浩之
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 瀬名さんの短編も面白いし、なんといってもオールドファンには田中さんの
「異星の人」の続編がこたえられませんね。こうやって一堂に会してみると、
日本にも様々な個性を持ったSFが生まれているなぁという感慨を持ちます。


『エレクトロンの悪夢』釣巻礼公著
2000/12/5、角川書店、1500円
粗筋:
 大手電機メーカーで自立制御型のロボット製作に携わる花村平太は、方向性
の違いから会社を辞し、自ら会社を興す。会社が順調に発展していくかにみえ
た矢先、彼は事故を起こし相手の女性を半身不随にしてしまう。責任を感じた
花村は、自立制御型の車椅子ロボットを開発しその女性に匿名で送り、介護に
役立てようとしたのだが……
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆
 SFホラーサスペンスです。『滅びの種子』と同じく進化ネタも入っています。
でも根っこはホラーですので、SF的展開は期待しないように(爆)

『銀河がこのようにあるために』清水義範著
2000/12/15、早川書房、1500円
粗筋:
 2099年、月面の天文台から観察された第十番惑星は、太陽に匹敵する大きさ
を持ちながら、暗い惑星の姿をしていた。そしてその惑星を観測していた天文
学者たちは、背後の宇宙がピクリと捩れるのを目撃した。
 いっぽう、人間のなかでも、100名を超える数の無自我病児が誕生していた。
 脳科学者の澤口と寧美との間に生まれた息子も、そんな自我を持たない微笑
むだけで何の反応も示さない穏やかな赤ん坊だった。息子の脳を観察していた
澤口は、頻発する異常現象と息子の脳の動きにある相関関係を見いだすのだが。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 2100年に向かってあらゆる異常現象がピークに達するというロバート・A・
ハインラインの「大当たりの年」のような作品です(本当にオマージュかどうか
は知りませんが)いつもの清水さんの作品のように、凄いアイデアを出してくる
んだけど、SF的な展開にならないのがまた面白いところです。ちよっと呆気にと
られますよ。基本的には、山田正紀さんが『ミステリ・オペラ』で使ったトリッ
クのSF版という感じなんですけど、効果的でした。


『ファンタジイの殿堂 伝説は永遠に』3巻、ロバート・シルヴァーバーグ編
斉藤伯好他訳、2000/12/15、860円
収録作:
<時の車輪>「新たなる春」ロバート・ジョーダン
<ゲド戦記>「ドラゴン・フライ」アーシュラ・K・ル・グィン
<オステン・アード・サーガ>「灼けゆく男」タッド・ウィリアムス
<ディスクワールド>「海は小鳥でいっぱい」テリー・プラチェット
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 有名ファンタジー・シリーズの書き下ろし外伝を収録したアンソロジー第三弾。

『ライオンハート』恩田陸著
2000/12/20、新潮社、1700円

『バラヤー内乱』L・M・ビジョルド著
2000/12/22、小木曽絢子訳、創元SF文庫、980円
ヒューゴー賞・ローカス賞受賞
粗筋:
 ヴォルコシガン提督の妻となり、いまはバラヤー摂政の令夫人となった元ベー
タ植民地惑星軍大佐コーデリアは、未だその男が中心の社会に馴染めずにいた。
宮廷近くのヴォルコシガン館を摂政公邸にすることになったコーデリアは、妊娠
していて、身をかばいながら公務に勤しんでいた。しかしこの安寧も長くは続か
なかった。反旗が翻され首都は制圧され、コーデリアは、五歳の皇帝を預けられ
辺境の山中へと逃げ込むことに。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 マイルズ・シリーズの面白さが、彼の知識と計略がにあるとしたら、その母親
であるコーデリアが主人公のこの作品は、彼女の行動力と剛胆さがその魅力と言
えると思います。ボサリ軍曹の秘密の過去とか、負傷したコウデルカ中尉の悩み
とか脇役陣も魅力的です。まだ読んでない人は、すぐにこの面白さを味わってみ
るべきです!(笑)



『祈りの海』グレッグ・イーガン著
山岸真訳、2000/12/31、ハヤカワ文庫SF、840円
表題作は、ヒューゴー賞受賞、ローカス賞受賞
収録作:
「貸金庫」
 だいたい数週間毎に、異なる人間の肉体の中で目覚める男の日常を描いた短編。
 ほぼ限定された地域内で、ほぼ同じ年齢(歳の差が数カ月以内)の千人あまりの
男たちの誰かに生まれ変わる(わけではないですがのです。
「キューティ」
 四歳になったとたんに死亡するように運命づけられた人工の赤ん坊を妊娠し、
出産し育てる男の物語。
「ぼくになること」
 幼い頃から脳の働きを模倣しその完全なるコピーとなった<宝石>を頭の中に
組み込んで生活している人々。普通、脳の働きが衰退する30代までに、人々は脳
を切り捨て、永遠に働き続ける<宝石>がその後の思考を司るのだ。
「繭」
 母体から胎児へ血液成分が供給される際の関門<胎盤>の機能強化により、薬
やホルモンの影響から逃れて成長できるようになることが意味するのは・・・
「百光年ダイアリー」
 光検出器を逆露光させることによって、逆転銀河からの情報を得ることが可能
になり、人類はみな未来から送られた自分の日記を見るようになっていた。
「誘拐」
 最愛の妻ロレインのコピーが誘拐された?誘拐犯は、そのコンピュータ上で走
る模造ロレインを苦しめない代わりに、50万ドル支払えと要求するが・・・
「放浪者の軌道」
 ある日、人類はある種の<しきい値>を超え、精神的に不可逆の変化を被った。
互いの価値観や思考・信念が共有されるようになったのだ。その結果、競合する
思考体系が忠誠を求めて争い、最終的には力の拮抗した境界でその版図は落ち着
いた。そして、どのアトラクタにも影響されずに彷徨う人々も僅かに存在した。
「ミトコンドリア・イヴ」
 ミトコンドリアのDNAを、たどることによって先祖を特定し、人類は一つだと
いう教義を広めている<イヴの子どもたち>に雇われて、EPR分析法によるより
厳密なDNA分析器を開発した男の発見した事実とは・・・
「無限の暗殺者」
 無数の平行世界の境界を崩壊させ、世界の存続を危うくさせるミュータント化
したSジャンキーを倒すために<渦>に送り込まれる男の運命とは。
「イェユーカ」
 ナノテクにより、血中成分を分析・診断・処置する指輪により、あらゆる病気
から解放された先進国の人々。しかしアフリカ諸国では、ひとつの共有ユニット
を一千万人以上の人が使う割合であった。もはや先進国では用が無くなって来つ
つある外科医は、まだ癌患者で溢れているアフリカに赴任する道を選んだが。
「祈りの海」
 溺れかけた人間に訪れる神との邂逅。もしそれが単なる体内麻薬の作用だとし
たら、それを教義としている宗教は・・・
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 どの短編も最新科学を扱いながら、問題意識に満ちた珠玉の作品です。個人の
アイデンティティと、それを人類全体の問題として扱う手際は見事ですが、厳密
な意味では、どの短編も結末が無いような気もします。イーガン氏の物語は、長
編も短編も基本的にはワンアイデア・ストーリーだと感じました。


『過ぎ去りし日々の光(上・下)』アーサー・C・クラーク&スティーブン・バクスター著
冬川亘訳、2000/12/31、各660円
粗筋:
 21世紀中盤、先端企業アワワールド社は、時空の虫食い穴<ワームホール>を使
った通信技術の実用化に成功する。社長のハイラム・パターソンは、独善の塊で
息子のボビーを自分の思い通りの人間に育てようとしていた。また異母兄で、有
能な物理学者のダヴィッドもその研究に参加を要請されていた。
 一方、この世界では、500年後に巨大な小惑星が地球と激突することが判明して
いて、社会には一種の閉塞した空気が醸し出されていた。その事実をスクープし
たジャーナリストのケートは、ボビーと恋仲になり事件の渦中に巻き込まれてい
く。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 メインアイデアは、ワーカムという時空を超えて対象物を観察できるカメラな
んですが、常に幾多もの観察者の視線に晒されることによってその世界が次第に
変貌していく様がビビッドかつ精緻に描かれていきます。まあこれだけの話(キリ
ストの一生を追うとかのエピソードはあるにせよ)だったら地味なSFなんですが、
事態は思いもよらない方向へと進展を見せますのでお楽しみに。クラーク氏の共
作というと、某宇宙のランデブーを思い出しますが、さすがバクスターは、並の
力量ではないということを証明してくれます。ハードSFファンも普通のSFファン
も必読ではないでしょうか。



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