橋元淳一郎氏のSFマガジン登場のチェックリスト その1。
---
1,「ハヤカワ・SFコンテスト」努力賞の『惑星<ジェネシス>』83/11
 生命現象と宇宙原理とを結び付けて相転移理論を拡大解釈したアイディア
 (石原博士の選評より)

2,『《氷河》に吹く風』84/10
(A)
  デビュー作。人類の無節操な高温有機超伝導物質の採掘が、ある連星系のバ
ランスをくずし、超新星にしてしまう。(乱開発に対する警鐘か?)
 人類とは違った進化の過程をたどった二種の知性体が描かれます。
惑星の半球を覆う知性をもった《氷河》と宇宙空間に住む《プラズマ・バード》
(B)
有機高温超伝導物質:これによって生み出された強力な磁力線で、惑星が母星
          である連星系をコントロールしていた。

3,『最後の相転移』86/2
(A)
  光世紀世界の探査員がフラクタル世界を探求します。
テーマは「宇宙は知性あるものの意識によって創造される」という知性体原理
かな?(フラクタル構造こそが、無限の宇宙をあまねく覆うのに最適である。)
テーマから判断すると、「ハヤカワ・SFコンテスト」の短編を加筆修正した
ものでしょうか?
 主人公がフラクタル構造物と同一化して、すべての空間を覆うために意識の
拡散を行うために、最後の相転移<宇宙創造の時>に向かうところで終わります。
(B)
《フラクタロイド》:LOG13/LOG2次元のフラクタル世界(あ、頭が^^;)
宇宙ができてから生命が発生したのではなく、宇宙誕生の時既に生命と知性の
誕生が準備されていたとする逆転の発想。

4,『種族ヌーリアス』87/2
(A)
  恒星が進化し、ついに意識を持った星が誕生する様が描かれます。そして知
性体は、星が自分の子孫を増やすための手段となりうることが示唆されます。
ストレートなアイデア勝負型のハードSF短編です。
(B)
星の進化:HとHeから最初の恒星種族IIが誕生、そして自らを犠牲にして重元素を
つくり宇宙空間に放つ。次の恒星種族Iが生命を発生させ、さらに次の恒星種族0
<ヌーリアス>はついに自分達の子孫を増やすために知的生命を利用するに至る。

5,『青白き橋』89/2
(A)
 超知性体による自然環境の設定された世界において、ヒューマノイドはいか
なる進化をするかの実験がおこなわれます。<無性生殖型のヒューマノイド>
と<有性生殖型のヒューマノイド>の相関と、違いが語られます。
 <有性生殖型>の世界と<無性生殖型>の世界が、《橋》によって相互に交
流するようになった時、そこに様々なドラマが生まれます。
 最後は、超知性体が各種のパラメーターを変えてこの閉鎖世界の実験を続け
ることが示唆されます
(この短編が橋元氏のターニング・ポイントではないかとの今岡清氏の示唆が
 ありました。)
(B)
安定した環境条件では、繁殖の面において無性生殖種の方が有利であるが、環
境条件がカオティックに変動を始めた際には、無性生殖種より有性生殖種の
方が環境の変動に適応して生き残る確率が高い。

6,『再会』89/6
(A)
 クラーク氏をほうふつさせる情感豊かな短編で、現在のところ、私の一番好
きな作品です。^_^
(しかし、昔の作品を一番に推すのは、作者に対して失礼になるのではなかろ
 ーか?確かクラーク氏も『私は「太陽系最後の日」から、全然進歩していな
 いということ か:-)』と、ぼやいていたような気もしますね。^_^;)
  虚無の宇宙を放浪する小世界が滅亡の危機に瀕したとき、冷凍冬眠に入る仲
間を後目にたった一人で、コンピュータの中の情報としての存在を選んだ男。
 ここでは、超知性体ではなくこの男の分身であるマスターコンピュータが作
りだした生物が、最後に自分の存在理由を理解しカタルシスを得る様が感動的
に描かれます。
(B)
コンピュータによる人間の知性維持装置《中枢》
《中枢》によって作り出された人間の作業を代行する知性体

7,『超網の目理論』89/8
(A)
 語り口がユーモラスなハードSF短編。宇宙交通事故の発生点を統計処理す
ることによって、絶対空間の存在が明らかになります。
 最後は主人公が、この特異点に再突入した後行方不明になります。その影に
は超知性体の存在が示唆されます。
 主人公達が、その特異な時空に突入して、レーザー光線を外部の宇宙に向か
って放つことによって、突如、通常の宇宙空間に無数の網の目状の星々が出現
するくだりは、ハードSF的こじつけがある分、F・ブラウンの「狂った星座」
にも増して破天荒であります。^^;)
(B)
『超網の目理論』:宇宙には絶対空間が存在し、それは通常宇宙から観測すれ
         ば無数の網の目結び目のように見えるが実は一つの時空と
         してつながっている。

8,『とけい座イオタ星系における知性体の研究』89/12
(A)
 前作に続くユーモアハードSF。有機知性体と無機知性体の、どっちが鶏で
どっちが卵か、というちょっとひねった短編です。
 やはりここでも作者の、誰が知性体の主人か(誰が創造主か)に対してのこ
だわりがうかがえます。
(B)
電脳知性によって創造された有機知性体と、人類によって創造された電脳知性。

9,『二億五千万年目の邂逅』90/1
(A)
 星間分子雲のただ中にある惑星で、調査隊は銀河系規模の《渡り》をする飛
翔竜と遭遇し、全滅の危機におちいります。しかし、その惑星の知性体の自己
犠牲によって、それを乗り切ります。
(B)
星間塵を餌にする飛翔竜と、竜が銀河間を飛翔する際の目印である四重クェー
サーを模倣して竜を引き寄せそれを捕食する食虫植物。
(しかし、25000万年も待つと腹も減るに違いない。^^;)

10,『二人の博士の異常な愛情』90/3
(A)
 二人の博士の会話が、大阪弁やおまへんかー。:-)
えーっ、人間のバイオリズムは波動でっしゃろ。そうすると、うまく山と谷を
重ね合わせることができやしたら、波動としての人間の質量は0になりやす。
(うーん、なんのこっちゃ。:-))
 ブラックホールに近づき過ぎた二人の博士が、自分達の質量を0にすること
によって、ポテントチルド空間を脱出します。
(B)
 精神は肉体と独立して存在し、その質量はない。

                                  '92. 7.19(Sun)destroy 

 橋元淳一郎氏のSFマガジン登場のチェックリスト その2。
---

11,『植民虫』90/7
(A)
 広大な宇宙狭しと飛び回り繁殖する昆虫型宇宙船。数十mの大きさのものか
ら、捕食性の数kmの巨大なものまで、様々なタイプの昆虫型船に乗り込んで
いるのは、特殊化した人間達。各々が自らの種の繁殖のために奔走するありさ
まが描かれています。一番弱いと思われていた種も、実はという結末ですね。
  宇宙船上で繁殖するために特殊化してはいるが、種としての人類のしたたか
さが、印象に残る作品です。
(B)
宇宙空間に生存している<スペース・コロニー>である昆虫型宇宙船。それに
乗り込む生殖、視覚、中枢、奴隷、筋肉、自由細胞などの特殊化した人類。

12,『モネラの断想』90/10
(A)
 名前が橋元淳一郎氏に変わった第一作目。
 ここらあたりから明確に作風が変化してきています。これより後の作品には
作中に作者自身とおぼしき登場人物が、しばしば登場しますね。
 《立体様相》なる新しい法則表現を発明した男の私小説的心情風景と、その
霊魂を研究しているモネラ種族の長の思考の流れを、交互に取り上げながら物
語はすすんでいきます。そして宇宙は滅び、最後に世阿弥の能の世界のように
寂寥感だけが漂います。
(B)
《立体様相》:漢字(表意文字)で表された方程式を重ねあわせることによっ
       て、ニュートンの力学体系は三層の《立体様相》で言い尽くせる。
霊魂は極微の時空の歪みであって膨大なエネルギーが蓄えられている。よって
霊魂の数が臨界量を越えると真空の相転位がおこり、宇宙が綻び崩壊する。

13,『神の仕掛けた玩具』90/11
(A)
 人類全体に対して憎しみを持つ異形の天才科学者と、その友人の天才科学者。
間近に控えた太陽のフレア化を防ぐ計画を実行中、小惑星地帯から反重力装置
を備えた物体が発見されたとの連絡が入ります。この物体に乗り込んだ異形の
科学者が、その存在を研究するうちに自らの人間としての記憶(原罪)は捨て
去ることはできないことに気づきます。
 そして謎(物体は生命体なのか?内部の部屋の中の仕掛は、友人が仕掛けた
ものなのか?)は解決されないまま、物語は余韻を残して終わります。
(B)
生命維持装置である棺桶の中で生き続ける天才科学者。
太陽のフレア化とそれを阻止する計画。
ニュートリノ通信機。
反重力粒子の発見(タキオンの復活?)

14,『ノスタルジア症候群』91/3
(A)
 知識人だけがかかる奇病。この不治の病にかかった主人公が、治療を受ける
スペースコロニーを舞台に物語は進んで行きます。以前に感想をupした時に
は、軽薄短小がもてはやされる現代を批判した作品ではないかと思っていまし
たが、最後にノミー達が《ノスタルジア》(これはたぶん知識の象徴ではない
かと)を吸うことによって命を長らえる場面は、印象的ですね。
 世界が破滅の危機に頻しようとも、科学を適切に用いることによってそれを
防げるとする橋元博士の立場が明瞭に表された作品のように感じました。
(B)
『大変革』:これ以後『知的』という言葉の価値が逆転してしまう。すなわち
      軽蔑と唾棄すべき言葉となってしまう。当然知識人は追放のうき
      めにあう。

15,『絃想演戯』91/9
(A)
 この作品を、橋元博士はアイデアストーリーとおっしゃりましたが、果たし
てそれだけだったのでしょうか?変えたいみたい過去は誰にでもいくつかはあ
るもの。しかしそれが宇宙全体を異なった未来に送りこむとしたら、貴方は果
たしてそれでも過去を変えたいですか?
(B)
《絃想楽器》:絵画的、空間的、数学的な抽象要素も含んだ知的欲求を表現す
       る精神で操作される楽器。これを改良して《玖能空間干渉装置》
       としたものがこの作中で使用される。

15,『タイム・ポリメラーゼ』92/5
(A)
 主人公である某有名作家が、橋元博士ご自身の投影らしいことに気づき、
“どうもこれはハードSF私小説ではないだろーか”などと考え始めました。
 人類が開発したポリメラーゼが独自に進化を始め、ついにはDNAから進化
の主導権を奪ってしまう。そして宇宙の終りに際して38億年前の生物を復活
させはじめます。そしてその質量エネルギーを利用して宇宙のビッグ・クラン
チを生き延びようとします。
(B)
PCR法:ポリメラーゼ・チェイン・リアクション法、DNA増殖技術、クライトン氏が『ジュ
ラシック・パーク』で恐竜を復活させたあの手法ですね。^_^

*結論のようなもの:橋元作品の総括^^;

 『神の仕掛は若干違った感想を抱きました。ちっぽけな存在である人類の心
情と、宇宙の広大さを対比させてはいるのですが、「知性体なくして、なんの
宇宙ぞ!」という心意気が感じられるのですが。。。。^_^
 これが橋元氏の作品の根底に流れるテーマであると私は思っています。
                        ~~~~
 ここまで付き合ってくださった皆様、ありがとうございます。^_^
へたくそな長文にてご苦労をおかけいたしました。(_o_)

                                  '92. 7.19(Sun)destroy 
 

|destroyの「Littel Shop of SF」に戻る|

|橋元淳一郎ファンクラブに戻る|